Ⅶ 積もりゆく真心─ⅵ
「あ……」
手紙の上にいた精霊の体が、ふんわりと淡く発光した。そして少しだけ、また白くなる。今ので「灰色」と呼べる程度にまで、黒が薄らいだ。
「育った……?」
こうした反応があるたびに、たるんでかさついていた皮膚のゆるみが、少しずつなくなっていく。ほんの気持ち、大きくもなったように思う。大きさはそれでも、サクラの掌よりもまだ小さい。それに、トカゲのような姿も変わらない。だが、目に見える変化は悪化している訳ではないようで、クレイセスも自然、微笑んだ。
「また黒さが薄くなりましたね」
「はい!」
手紙の束の上でへちょ、としているのは変わらないが、サクラは喜びがふんだんに含まれた返事をすると、嬉しそうに頬らしき場所を指先でつつく。
「お話中、失礼いたします」
布の向こうで声がして、サクラがどうぞと促せば、ひとりの騎士が入って来た。
「メトリオ」
クレイセスが驚いて名を呼べば、サクラが首を傾げるのに「ルースベルヌに調査にやっていた者です」と答える。するとサクラも立ち上がり、すでに騎士の正礼をする彼に近付いた。
「遅くなり申し訳ありません。調査に時間もかかったのですが、おいでの場所が正確に掴めず、遅くなりました」
「いいえ。情報は混乱していると思います。そんな中、ここまで来てくださってありがとうございます」
礼を言えば、「もったいないお言葉、痛み入ります」とさらに頭を下げる。
「それで、何かわかったか」
クレイセスが問えば、三十半ばに見える彼は顔を上げ、少し難しい顔をして言った。
「端的に申し上げれば、わかったことはひとつだけです。彼女には、子供がいました」
「子供……? その子は、見つかったんですか」
年齢を考えればいてもおかしくはないが、サラシェは記憶を取り戻してからもサクラにそれを伝えなかった。子供がいた事実は、クレイセスにとっても少なからず衝撃だ。
「いいえ」
メトリオは落ち着いた口調でもって首を横に振る。




