Ⅰ 春希祭(キアラン)─xⅴ
そんな中、みんなも一緒に、と促すために両手を前に広げたとき。
「!」
サクラはまっすぐに飛んでくる、銀色の何かを、視認した。
逃げなくては。
そう思ったときには、篝火を反射しながら空を切り裂く、いびつな氷柱めいたそれは目の前にあり、サクラの胸をまっすぐに貫こうとしていた。
しかし、目の前が暗転する。
「サクラ様を守れ! 皆その場を動くな!」
ガゼルの太い声が響く。指示を出しているのがクレイセスじゃないなら、今サクラを抱えて飛んだのは、クレイセスか。
視界を塞がれた状態では、何がどうなっているのかわからない。
「クレイセス! 動けるか」
「問題ない」
クロシェとクレイセスの声がひどく間近に聞こえ、サクラは頭をかばわれるようにしながら起こされると、ようやく視界を取り戻した。
クレイセスに抱きかかえられた状態で、サクラは祭壇の下にいた。
「大丈夫ですか、サクラ」
「大丈夫、です……。今、のは」
「森には人を遣っています。刃が来た方向にアクセルが矢を放ちました。手応えを感じていたようですから、何某かの痕跡は見つけられるでしょう」
間近にあるクレイセスの顔は、いつもと変わらない冷静なもので。
サクラはこくりと頷く。
あ、死ぬ。そう思ったのだ。
生きている不思議と恐怖が、にわかにサクラの内に湧き起こる。
「しばらくこのままで」
言うが早いか、クレイセスはマントに隠すようにしてサクラを抱え上げ、多くの気配とともに走り出した。
滞在中の営所に戻るも、それまでとは部屋を変えられ、ようやくサクラは床に足をついた。そうして一息つけば、クレイセスの右腕から肩に掛けて、騎士服が裂け、血がにじんでいることに気がつく。
「クレイセス、怪我……」
「ああ。これくらいは別に」
大したことはありません、と言うクレイセスに、「座ってください」と腕を取って椅子を促す。なおも遠慮しようとする彼の腕を強引に引っ張って座らせ、サクラは傷口を確認した。




