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Ⅶ 積もりゆく真心─ⅱ

「『セルシア』が必ずしも王都にいなくてはならない訳じゃない証明にはなった気がしますけど。帰らないといけないですかね?」

 そこまでかと、クレイセスは「そう嫌わないでください」と笑った。


「王とセルシアは一対(いっつい)です。また、大神殿はレア・ミネルウァの心臓とも言われます。それを守るためにもあそこが王都であり、王とセルシアの在所として定められたのですよ」


 ふーん、と頬杖をつくサクラの胸元から、あれからまた黒を薄くした精霊が、もぞもぞと出て来る。少し、大きくもなった。ただ体力はないようで、よじよじとのろい動作で肩口まで上ると、力尽きたように「へちょ」と落ち着く。


「名前は、つけないのですか」

 訊けば、サクラは飲んでいた紅茶を指先につけて精霊の前に差し出しながら、少し困ったように笑った。


「つけないです。わたしが名前をつけたらきっと、この子をイリューザーと同じように縛ることになります。どこから連れて来られたのかはわからないけど、本来の場所があるなら、いずれはそこに返したいので」

「そうですか」


 サクラの「何も縛りたくない」姿勢は、いずれこの世界から出て行くことを、今から覚悟しているようで。クレイセスは王都に戻ったときに聞かされる話がどんなものかと、ときどき考えを巡らせた。しかしあの夜の話から、自分の頭は飛躍できる思考を持たない。ゼグリアでもフィラ・イオレでもない。メルティアスでもない「世界」とは一体、何を指すのか。自分の知らぬ「世界」に対し、レア・ミネルウァというひとつの世界と、サクラは一体、何を約束したというのか。最奥に戻るまでは、本当に謎のままだ。


「最奥に戻ったら、約束です。二つ目の約束というのを聞かせてください」

「ちゃんと覚えてます。でも、こだわりますねえ……」

 精霊はサクラの指先を吸うように口先を寄せると、またへちょ、と動かなくなる。見た目は正直醜いままだが、少しずつ回復していることは、見て取れた。

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