Ⅶ 積もりゆく真心─ⅰ
ニットリンデンにセルシア旗が掲揚されてから半月。
その間にも旧ニアベル伯爵領に駐屯していたフィルセイン軍を各個撃破、潜伏していた騎士たちが次々に呼応し、王の領地の回復がなされていた。
ハーシェル王からの勅旨も届き、サクラは「これはこれで困りましたねえ」と幕舎の中で眉根を寄せる。
「これは……誰を残す、と考えるのがいいんですか? それとも、取り立てる、がいいんでしょうか」
ハーシェルからの勅書には、「回復した土地はセルシア領として膝下に」とあり、それはそれで頭の痛い話だ。
「そうですね。この際ですから取り立てるほうが今後の士気に繋がるかも知れませんが。誰を登用するかは、考えなくてはなりませんね」
クレイセスの言葉に、サクラはハーシェルの勅書をうーん、と眺める。
「お返しします、とか言うと、角が立つ?」
「立ちますね。ついでに申し上げますが、この所領を与えるべき功績のある貴族もいない。返すのなら、領主として明確に誰かを推挙すべきでしょう。でなければ、いらぬ争いが王宮で起こる」
「はあ……」
それに、とクレイセスは続ける。
「もともとこの世界では、土地自体はセルシアが全土を管轄する、というのが前提としてあります。それを人が住む土地として王が借用し、統治のために所領を分割している。何かあれば土地がセルシアに帰属するのは、正当なのですよ」
「土地……空っぽって訳じゃないのに……」
セルシアと、レア・ミネルウァという世界が一体視されているがゆえの法だ。しかし有事の際にセルシアが引き受ける負担の大きさに、サクラの眉根が寄る。そうして溜息をつき、用意されて冷たくなった紅茶を口にした。
「論功行賞の人事に関して、急ぎ進めます。あなたはそろそろ一度、王都に戻ったほうがいい」
クレイセスの言葉に、王都から出てすでに五ヶ月になろうとしていることに気がついたようだ。今から帰ったとしても、都合半年は不在だったことになる。




