Ⅵ 従騎士ーⅹⅴ
「譲位……とは?」
ガゼルの問いに、サクラは恨めしそうにクレイセスを振り返った。
「俺も、詳しく話してもらった訳じゃない。ただ、サクラがセルシアとして選定された折、世界と約束したことは二つあるそうだ。一つは現状の戦乱を終わらせて世界に平穏を取り戻すこと。そしてもう一つは、この世界にいては出来ないこと、だとしか」
クレイセスは物言いたげな主君の視線を無視して、己が知る限りを開示する。そうすることで、主君に口を割らせようとするように。
「サクラ様……」
皆が口々に名前を不安とともに吐露する中、少女は弱り果てたように言った。
「何も今、不安を煽るように言わなくても」
皆に知らしめるような言いまわしをしたのは、クレイセスが数でもって落とそうとしているからだ。しかしそれを阻止出来る言い分をサクラは持ち得ないのか、騎士たちは自然、不安を抱いた。
「この件に関してはいつだろうと同じです。フィルセインを後退はさせたがこの東の一部に過ぎない。レア・ミネルウァ自体が自身を制御出来ずにあなたに害をなすのであればなおさら、盾になれる存在は必要です。従騎士が傍にいさえすれば護れるのなら、今回のようなことを引き起こさないためにも数が要る」
落ち着いていながら強い語調でクレイセスが主張するのに、サクラは視線を下げたままだ。
「サクラ。あなたには全貌が見えている分、思うところはあるかもしれない。ですが俺たちも自分の世界であり、自分の将来のことです。どこまで己を賭けるかは、自分たちで決めたい」
一歩も引く気のないクレイセスに、眉根を寄せたまま考え込む主君。
ひりついたこのやりとりは、二人の間で何度も行われてきたのだろうことだけが、周囲を取り囲む者たちに推察できた。
「サクラ様」
しばらくの沈黙ののち、ツイードが口を開く。




