Ⅵ 従騎士ーⅹⅲ
「物々しい雰囲気だな。何かあったのか」
目を見開いたガゼルの問いに、訪れたバララトは落ち着いた雰囲気でもって「何も」と笑う。
食事を終えた時刻。
長官たちが全員揃っている幕舎の中で、くつろいでいた少女の顔に異変でもあったかという緊張が走った。
「何ということもございません。ただ、改めてお願いに上がった次第です」
「お願い、ですか?」
少女が首を傾げたのに、バララト、ツイード、カイザル、アクセルは、一斉に騎士の正礼を取った。それにはあわあわと少女が立ち上がり、「一体なんのお願いなんですか?!」と自分たちの前に戦いた表情で両膝をつく。その肩には、やはりぺったりと貼り付いた黒い塊がいた。
「何卒我々も、サクラ様の従騎士としてお認めいただきたく」
「は……?」
クレイセス以外、皆が目を丸くする中、バララトは続けた。
「先日はサクラ様のご体調もあり、願いは叶えられませんでした。ですが今ならば、聞き入れていただけるかと」
途端、困った顔になった少女に、アクセルがたたみかける。
「あんな思いはもうたくさんです。我々は『セルシア』登極の際、フィデルをいただきました。しかしそれではあなたを守れないというなら、『サクラ様の』従騎士として俺たちを認めてください」
一番年若いだけに、アクセルの声はまだ感情が露わで、それゆえの必死さが少女には響くようだ……と、最年長のバララトはすっかり感情を押し殺すことに長けてしまった己の経験が、こういった場面においては利にならないことを、ほんの少し残念に思う。
「そういや、あんとき参列した正騎士全員にフィデルは浮かびましたね。俺たちの印と、違うんですか」
ガゼルの問いに、サクラは「うーん……」と説明する言葉を探す表情になる。




