Ⅳ 従騎士ーⅹ
「それを受けて、今調べさせているが……ここ二年、世界中で出生率自体が異常に落ちていることは、間違いないようだ」
「それには、原因がある、と……?」
ハーシェルは、曖昧に頷いた。
「かもしれない、くらいしか、今は言えないが。サクラが『ニットリンデンの楔』を抜いた。その楔は、精霊を閉じ込め、変質させたものだったそうだ」
怖いおとぎ話には、悪い精霊が出て来る。しかしその元を正せば、人が歪めてしまったゆえの話であることが多い。ユリゼラは今起きている事態が、少なからず自分にも関係しているのだろうかと、わずかに生まれた可能性を思った。
「子供のことは、それこそユリゼラが健康を取り戻してからでいい。サクラの世界では、四十を越えての出産も珍しくないそうだ。そう考えれば、俺たちにはあと二十年もある」
穏やかにそう言うハーシェルの顔が、ぼんやりと滲んでいく。
「サクラにかこつける訳ではないが……俺は、あなたがいいんだ」
頬を伝う前に、ハーシェルの指先が目許を拭った。
「あなたが、諦めないでくれ。体がきつければどれだけ休んでいてもいい。俺を、置いていくことだけは許さない」
そういって抱き締められた肩越しに見える蒼天を、ユリゼラは不思議な気持ちで見上げる。
「私は……貴族に対して、なんの力も、持ち得ませんわ」
「この世界で、『王』に対して最大の影響力を持つ以外に、必要なことが?」
「子も……授からないかもしれません」
「兄の子が生きている。出来なければそちらに王統を継がせればいい」
王妃が複数いても、子に恵まれない王はいた。その場合、血統や年齢を考慮して、臣籍降下した王族の血筋から皇太子が立てられてきたと、特に強がるでもなく、ただ当然のこととして説明するハーシェルに、肩越しに見上げる蒼天が滲んだ。




