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Ⅳ 従騎士ーⅸ

 自分が王妃でいてはならない理由ばかり、いくらでも思いつく。周囲に煽られるばかりではない。自分が、自分で気に入らないのだ。その中でも最大の理由はふたつ。


 ハーシェルは視線を合わせたまま、黙ってユリゼラを促す。

 その涼やかな目が、あまりにも優しくて。

「一年……経ちました」


 そう何もかも、うまくいくことばかりではない。けれど、うまくいかないことばかりが、頭を、胸を締め付ける。


「私には、いまだに子供も出来ません。貴族の不文律に(なら)うなら、やはり……新しく妃を……迎えるべきです」

 ご機嫌伺いに来る者たちは、「毎晩後宮にお越しとか。それだけのご寵愛なら、いつ授かってもおかしくありませんわ」といった内容を、言葉を変えて浴びせてくる。つまり授かってもおかしくない状況でありながら授からないことを、遠回しに「おかしい」と非難しているのだ。


 実情を明かせば、ハーシェルは毎晩後宮に来てはくれるが、ユリゼラの体調不良に付き添ってくれていることのほうが多い。子供を持つための行為自体は、数えるほどしかなかった。


 女として、愛されていると思う。人として、大切にされている。しかし王妃として、王を癒すことも、支えることも出来ていない。それどころか、負担を増やしているに過ぎないのだ。


 これでは駄目だと、心が叫ぶ。重責と苛烈なまでの仕事量に圧されるハーシェルを、支えたいとここに来たのに。自分は重石(おもし)になるばかりで、彼の負担ひとつ、減らしてあげることが出来ない。愛しいからこそ、それが苦しくて仕方がない。


「それに関しても、クレイセスからの手紙に憂慮すべき事態が書かれていた」

 即座に応えるハーシェルに、ユリゼラはわずかに首を傾げる。

「憂慮すべき、事態、とは」


「ニットリンデンでは侵略されて以降、家畜も人も、生まれていないのだそうだ」

「生まれて、いない……?」


 ハーシェルの言葉に、ユリゼラは愁眉でもって見つめる。


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