Ⅳ 従騎士ーⅷ
「サクラの力は日々強まっています。私はこの王都にいても、サクラの起こした光響の気配を感じるときがあります。鎮魂の祈りが聴こえるときがあります! 今のサクラなら、この世界に居ながらにして可能ということも」
勢い込んで言ったユリゼラに、ハーシェルは緩く首を横に振った。
「サクラは、従騎士ですら置いて行こうとしているんだ。その姿勢は今も変わらない。クレイセスからの私信にはいまだに、知っていることがあるなら教えろと、様々な脅しが並んでいる」
「そん、な……」
琥珀を見開いたユリゼラが、すとんと、地面に腰を落とした。
サクラを得られないことが、立っていられないほどの衝撃であるなどと、とハーシェルは苦く笑う。春が芽吹きを謳歌する四月、若草の上で呆然とするユリゼラは、憂いていてもなお美しい。
ユリゼラと出逢っていなかったなら、現実問題として自分はサクラの手を取ろうとしただろう。「そのとき」が来るまでの暫定の王妃でも、彼女となら協力関係は築けると割り切って。
しかし、ユリゼラと出逢い、得られたのだ。
彼女のすべてが、この世界のどんな子女より王妃として相応しい。今でも、そう思う気持ちは変わらない。
死期を察しているとはいえ、自分の手を取り、並び立つ存在として、その最期のときまでを諦めて欲しくなかった。
「ユリゼラ」
呼びかければ、ぎこちない動きで琥珀が見上げる。
日差しを受けて金色にすら見える瞳には、困惑が強く表れていた。
「どうか、あなたが王妃であり続けることを考えてはもらえないだろうか」
「それは……」
「サクラは、ユリゼラが生きられる道を探してくれている」
「え……?」
「決して簡単なことではないようだがな。しかしそれでも、サクラは探すことを諦めていない。あなたが先に、自分を諦めないでくれ」
そう言ってしゃがんで合わせられたハーシェルのまっすぐな視線に、ユリゼラは引き結んだ唇が震えるのを抑えられなかった。
「だっ……て」




