Ⅵ 従騎士ーⅳ
クレイセスの話に、どうしていつもいつも自分のいないときに何か起こるんだろう、とサンドラは歯噛みする。
「最初は気付かなかったんだ。宙に浮いてる黒い繭を見つけて、あれがと思ってサクラの目隠しを外した。サクラが精霊を中から出そうと奮闘しているときに、繭が安置されていた台座が首であることに気がついた。顔は三つとも内側を向けて、付き合わせた鼻の上に固定されていたと言えばわかるか? さすがにあれをサクラに見せる気にはなれなくて、気付いてないうちにまた目隠しをした。あのまま置いていくのも忍びなくて、イリューザーの口を借りて首も運び出した」
クレイセスの独白のような説明を、サンドラは黙って聞く。
「バシュラフが言っていた。抵抗した騎士の多くは、あの回廊の真ん中で首を落とされたと。サウロスは……地上から地中に染みるよう血を浴びせ、あの地下回廊で、拷問にかけた者たちの悲鳴や恨みの声や思いを聞かせ続けて蓄積させ……精霊を変質させたんだ」
「本当に……ひどいことを、する」
何をどう言おうと、現実に届かない表現にしかならない。
サンドラは先程見た光景に、フィルセインに対する激しい怒りに、サクラを護ることの決意を新たにする。
「サクラが、仮死状態のときにユリウスに会ったという話は聞いたか?」
「サクラ様からではなく、バララトの手紙に詳細が書いてあった。精霊は滅したほうが安全だと言われたんだろう? でもあのご様子だと、精霊を元に戻してやろうとされているな」
「ああ。最初に言われた。何があっても精霊を斬るなと。サクラはああなってしまった精霊も、戻ると思っているようだ」
「戻らないと思うのか?」
「わからない。だが、王宮の森で見た精霊たちとは、あまりにかけ離れた姿だ。ひどく衰弱しているようにも見える。あのまま力尽きてしまうことも、考えられるかもしれない」




