Ⅵ 従騎士ーⅲ
「いや。アクセルが目隠しをして連れて来た。感じるところはあっただろうが、直接目にはしていない。主君が見ないことで守れる騎士の尊厳があるとアクセルに言われて、目隠しを承諾したそうだ」
「そうか」
見ていないなら、いい。
サンドラは安堵の息をついた。
フィルセインの残虐性については、進軍が始まってからすぐに囁かれ始めたことだ。
「サクラ様を、絶対に渡してはならない」
己に強く言い聞かせるように言えば、クレイセスも頷く。
「戻って来てくれて助かった。従騎士の役割が、世界そのものからセルシアを護ることだったとは、思いも寄らなかった。しばらくは離れないでいてくれ」
「言われなくともそうするつもりだ。まだ体もずいぶんと熱かったし。体調が戻るまでは、夜もついている」
言えば、安堵したように笑んだクレイセスの顔色もひどい。
彼は椅子に掛けたまま、一度天井を見上げて深い溜息をついた。
「家令のディレッティーは?」
「首を返したら、大人しくなった。取り調べにも素直に応じてる。……主人の首を抱いたままな」
「首は、あの地下回廊にあったのか」
訊けば、クレイセスは物憂げに青い瞳をサンドラに向けて答える。
「サクラの肩に、精霊がいただろう。あの精霊は繭の中に閉じ込められていて、伯爵家族の首の台座の上に、固定されていた。あった場所は、あの回廊の中心あたりになるんだろうな。サクラが内壁をすり抜けようとするのを捕まえて一緒に中に入ったが……サウロスは、あんな空間を作れるほどの術を容易にするんだと、認識を改めた」
「お前、大丈夫か? いつもより話がわかりにくい。サウロスの術の中に、あれがあったということか? ヤツは違う空間を作り出せる?」
「ああ。まったくの暗闇の中で、広さがどれくらいかも推測できないが。術の境界を越えるには、サクラに触れていなくてはならなかった。中ではサクラの力なのか、俺たちだけがぼんやりと発光して見えた」




