Ⅵ 従騎士ーⅱ
「サンドラさんが戻って来てくださったので、きっともう大丈夫です」
へらっと気の抜けた笑顔を向けられ、サンドラはようやく息をつく。
そんな自分を見上げてじっと見つめるサクラに「どうしましたか?」と屈めば、ためらいを含みながらも腕が伸ばされ、サンドラはきゅっと抱きしめられた。
「お帰りなさい。……無事で良かったです」
サンドラは抱き締められて、ふふっと笑う。
クレイセスとクロシェに、どうだと見せてやりたいくらいだ。
サクラの対人距離は、この世界の人間と比べるとやや遠い。異性ならなおさらだ。それが今では、若干のためらいがあるとはいえ、密着まで可能になった。今回のことがそれほどまでに、サクラにとって怖いことだったというのもあるかもしれない。その中にあって、自分を頼りに思ってくれることは嬉しかった。
女で良かったと、初めて思えたくらいには。
「精霊がいるなら余計に、身を清めておかれたほうが良いでしょう。クレイセスに報告を入れたら戻ります。今しばしお待ちを」
お返しとばかりにぎゅっと抱き締め返して言えば、屈託のない笑顔が「はい」と頷いた。
*◇*◇*◇*
「ずいぶんな有様だな」
「……戻ったのか」
少し離れた砦にいると思い込んでいるためか、サンドラの声にクレイセスの反応は一瞬遅れた。
「バララトが急使をくれた。指揮権はアドニール隊長に戻してここに来た」
「そうか。無事で何より」
幕舎の中で事後処理に当たっているクレイセスはひどく疲れた様子で、サンドラはまあそうだろうなと嘆息する。ここに来るまでに、半壊した地下をざっと見た。これをサクラが見たのかと信じられない思いでいるし、見せたことも許し難い思いでいる。
「地下を見た。……サクラ様は、あの光景をご覧になったのか」




