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Ⅴ ニットリンデンの楔―xxx
やがて、クレイセスが入れた切れ目をなぞるように、中から黒く細い爪が現れた。
「これは……」
戸惑うような声が、周囲から漏れる。
出てきたのは五センチほどの、小さな小さな、黒い塊。
かろうじて形を保っているが、皮膚はたるんでかさつき、這うようにして出て来たそれは、今まで見てきた精霊とは大きくかけ離れていた。あえて表現するなら、姿は水分を失ったトカゲのような。
サクラはそっと手を伸ばし、指先で頬を撫でる。するとそれは縋るかのように、全身でサクラの指先にしがみついた。
「初めまして。出てきてくれてありがとう。あなたに、会いたかった」
すると、体に比較すると異常に大きな目が見開き、潤んだ黒い目がじっとサクラを見つめ。
小さく、キィ、と啼いた。




