Ⅴ ニットリンデンの楔―xxx
「水はありますか」
「飲料用でしたら、非常用に持参したものが。ここにあった井戸は、さっきの地震で濁ってしまいました」
その答えに、アクセルがすぐにここへと指示する。
「そいつをなんとかしてやらないと、また地震が来るのでしょう? 水源は探します。今は早く、鎮めてやってください。…………サクラ様のお顔の色も、どんどん白くなっています。また生死をさまよわれるのを見るのは、ごめんです」
アクセル自身も青い顔をしてそう言うのに、サクラは頷いた。イリューザーとも先程の地震ではぐれたのか、その姿がない。己を守っている「従」と完全に離れたことは、サクラ自身も不安だった。
運ばれてきた水で手を洗って血を落とし、綺麗にした手で胸元から繭を取り出せば、表情もないのに、繭はなんだかぐったりとして見えた。それを、一番葉付きのいい幼木の上に乗せ、サクラはそっと歌った。
幼木はすぐに光響を起こし、美しく虹色に輝く。生まれ出たばかりのものだからこそ持ちうる、旺盛に成長を欲する命の輝き。つたないながらもサクラの歌う旋律をなぞるように、澄んだ音も発した。
周辺の木々も遅れて光響を起こすが、ほとんど白く発光するだけだ。持ち込んだ幼木のような、色も音も放てない。それだけに、持ち込まれた十二本の幼木の美しさがまた、際立って見えた。
出ておいで。
サクラは優しい気持ちで、語りかけるように歌う。
サラシェリーアが教えてくれた子守唄は、覚えているのは三番までだ。一番は、生まれてくるのを待っているよと語りかけ、二番は会いたかったよと喜びを告げる。三番は、見守っているよと、成長を促す内容だ。ひょっとすると続きもあるのかもしれないが、サクラはだいたいそこで眠ってしまった。
「あ……」
何度か繰り返す内に、黒いだけだった繭が白くなってきた。周囲を取り囲んで見守る騎士たちも、その変化に息を詰めている。




