Ⅴ ニットリンデンの楔―xxⅷ
術の境界を越えるときに繋がっていなくてはならなかったのかと、サクラは来た方向に手を伸ばして叫んだ。
「手をつかんで」
言えば、クレイセスがサクラの手を握った。
ぬるりと、べたつく液体が手に付いたのがわかる。見えないながら、それが何か想像出来てしまい、サクラの背筋に震えが走った。
続いてイリューザーも鬣をつかんで引き出し、ようやく安堵したところで繭に触れたとき。
全員の耳に、ガラスをひっかくような巨大な叫びが聞こえた。
「いけない!」
大きく揺れ、クレイセスが全員退避を叫ぶ。アクセルが自分を抱えて走り出すのに、サクラは繭を落とさないよう、そして潰さないようただ両手で抱きしめた。
地上に出れば、空気を感じると同時に建物が倒壊する凄まじい音。
「サクラ様それドレスにでもしまってください!」
「え?! 谷間ないからそれはムリ!」
「この際腹でも問題ないです! 何があるかわからないので両手を空けてください!」
必死で逃げているらしいアクセルが言うことに従い、一応胸元に入れ、自由になった手で目隠しを外す。
腕の中から見える街は倒壊した建物が上げる塵埃に包まれて霞みがかり、通りには大きな亀裂が走っていた。
アクセルはその中を、建物がない場所を目指して走っている。
「止まった……」
サクラが胸元を抑えながらアクセルにしがみついて間もなく、揺れがおさまった。
「アクセルさん、降ろしてもらっても、大丈夫そうです」
警戒の色を滲ませたまま周囲をうかがうアクセルにそう言えば、ハッとしたようにサクラを降ろす。
「あ……原因、これか……」
左手に、べったりとついた血。血がついたままの手で触れたために、精霊は苦しみを発散したのだ。
これはクレイセスを引っ張り出すときについたもの。離れたあの一瞬に彼が怪我をしたのだろうかと、一瞬不安が過る。
「大丈夫ですよ。それ、団長の血じゃありません」
察したように、アクセルが気遣うように言った。




