Ⅴ ニットリンデンの楔―xxⅶ
「目隠し……外してもいいですか」
「ええ。ここなら問題ないでしょう」
クレイセスが動き、うしろの結び目を解いてリボンを外す。
あたりは暗く、クレイセスとイリューザーだけがぼんやりと浮き上がって見えた。
そして目の前には、宙に浮いた台座のようなものに支えられた黒い繭が、わずかに鼓動する動きを見せて、そこにあった。
サクラはその繭に手を伸ばしてそっと取り上げると、ほぐせる場所がないか表面をさする。やわらかくも指先で開けるようなものではなく、すぐうしろで見守っているクレイセスを振り向いた。
「これ、デュエルさんにしたときみたいに、表面だけとか切れます?」
「繭の厚みがどれほどなのか……」
そう言って触れて感触を確かめると、左腕から隠している手離を取り出した。
「こちらのほうが、中を傷つけずに済みそうです」
言うと、斜めの軌跡を残して腕が動く。
サクラはその傷跡に指を沿わせるも、破ることも出来ず、中にいるはずの精霊に到達しない。
「ね……お願い。出て来て」
呼びかければ、ずっと泣いていた声が止まった。様子をうかがうような雰囲気に、サクラは繭を両手で包んだ。ちょうどサクラの手におさまる大きさで、こそりと、中で動いているのがわかる。
そのとき、周囲に視線を廻らせていたクレイセスが言った。
「サクラ、目隠しを」
「え?」
言うが早いか、クレイセスは先程ほどいたリボンでサクラの目許を覆ってしまう。
暗いだけの場所。繭のほかには、何も見えなかったのに。
「イリューザー、ちょっと手伝え」
サクラは何が起こったのかもわからず、繭を潰さぬよう抱きしめる。
「サクラ。出口と思われるほうに向かって歩いて下さい」
言われるままに歩けば、不意にまた厳しいにおいの場所に出て、「サクラ様!」とバララトとアクセルの声がした。戻ったのだと安堵したが。
「クレイセス様と、イリューザーは」
バララトの言葉に、二人は出て来てないのかと振り向く。




