Ⅴ ニットリンデンの楔―xxⅵ
「遅くなってごめんね。迎えに来たよ。出ておいで。怖いことは、もうないから」
呼びかければ。
「サクラ!」
「サクラ様!」
伸ばした手の先に土壁の感触はなく。
サクラが進めるままに歩き出そうとするのを、うしろから腕を取られて立ち止まる。
「サクラ」
クレイセスの声。
目隠しで姿は見えないというのに、金色に光を帯びたフィデルが、おそらく彼が立っているのだろう位置に見えた。
「お気付きでないでしょうが、何かの術の中、のようですよ。状態としては、あなたが半分土壁に入っています」
「うえ……なんか光景としては嫌かも……」
見えていないので直感に従い動いていたが、このまま飛び込むのは危ういのかもしれない。しかし、何かが阻むという雰囲気も感じられなかった。
「サクラ。この中に、その繭の気配があるのですね?」
「ええと……目隠しされてる今の状態で、繭の姿が、浮いてるみたいに中に見えます」
「わかりました。あなたに触れていれば俺も入れるようだ。その場所まで連れて行ってください」
クレイセスが言うと、イリューザーがピタリとくっついて来た。自分も一緒に行くつもりのようだ。
「鬣を、つかんでやれば良いのでは。何が起こるかわかりません。イリューザーがいたほうが心強い」
言われ、サクラはつかみやすいところの鬣をそっと握った。
「俺も! 付いて行きます!」
「私も」
声を上げるアクセルとバララトに、クレイセスは待機を命じる。
「何があるかわからない。三十分して出て来なければ、ガゼルたちに報告してくれ」
二人の、しぶしぶといった体の「御意」が聞こえ、サクラは振り返って「お願いしますね」と言うと、ずっと叫ぶように泣いている、繭に向かって歩き出した。
右腕の上腕をクレイセスがつかんでいて、サクラは左手でイリューザーの鬣をつかんだまま、ただ真っ直ぐに歩く。
「これが……?」
泣き声の前まで来て歩みを止めれば、クレイセスから不思議そうな声が上がった。




