Ⅰ 春希祭(キアラン)─xii
サクラはとりあえず、説明された祭礼の手順を思い出す。
この大勝利をもたらしたのはサクラであることは、騎士たちによってすでに広められており、ただでさえ一目見たいと願う民衆が多いところに、拍車をかけた形だという。
ダールガットは六十万人が居住する大都市だ。商業都市であることから、行き来する人の数はその四、五倍。森の突端を目の前にした中央広場で行われる、この春を願う祭りは、もともと身動きが取りづらいほどの人出があるが、今回はさらに人が集まっている、ということだった。そのため、立ち位置の確認に現場へ出向くことも、前日になって中止になった。
おかげで、サクラにしてみれば一発本番。歌う歌は決まっているからと言われたが、音楽隊と合わせてもいない。果たして本当にうまくいくのかと、不安が拭えない事態だ。
窓の外はすでに暗く、営所の中も慌ただしい雰囲気に包まれている。
二人分の足音が聞こえ、ノックとともにガゼルとサンドラが顔を覗かせた。
「お待たせしましたサクラ様。お心の準備がよろしければ、向かいましょうか」
二人ともまた「二割増し」で、四人揃うとなると、違う意味でまた騒がれそうと思いつつ、サクラは「頑張れわたし」と気合いを入れて、執務室を出たのだった。
*◇*◇*◇*
滞在している営所は中央広場に近く、歩いて五分の距離だ。
クレイセスを先頭に、右手にサンドラ、左手にイリューザーとクロシェ、うしろにガゼル。取り囲まれた状態で動くサクラは、彼らが壁となって、周囲はよく見えない。
ただ、夜の闇を払うかのように多くの篝火が焚かれ、多くのランプの火が灯されているのが、隙間から見える。店も出ているとのことだったが、人影ばかりが目に入り、そういったことの様子はまったく探れなかった。




