Ⅴ ニットリンデンの楔―xxⅴ
「何か感じる場所があったらおっしゃってください」
アクセルに頷けば、彼はゆっくりと歩き始めた。
カツン、と高い音が響く箇所もあれば、水たまりを踏んだような水滴のはねる音もする。歩き方も規則的ではなく、時折何かを飛んで避けるかのような、不規則なものだ。
「サクラ」
どのくらい歩いたかわからないが、体感としては三分くらいして、クレイセスの声が聞こえた。
「さっきの地震は、精霊の悲鳴が原因です。もう時間がないので、連れて来てもらいました」
近付いて来た気配にそう言えば、目隠しをした目許に触れ、「正解ですね」と、小さく言った。
「何か、わかりましたか」
「いえ。まだ何も。でも、気配は強くなってきてるんです。この地下は、まだ奥に広がってるんですか」
訊けば、上の回廊庭園の真下に位置しており、やはりここも四角い回廊状に形成されていることをクレイセスが説明してくれる。そしていくつか派生するように、部屋が掘削されていることも。
「ディレッティーは回廊庭園の真ん中にって、言ってましたね。どこかに中心へ行く道が隠されてるんでしょうか」
「それを思い内側の壁を伝ってみましたが、今のところはそれらしき扉や穴などは見つかっていません」
クレイセスの言葉に、サクラは少し考える。
「アクセルさん、降ろしてください」
言えば、アクセルはそっとサクラの足を床に着けさせ、ゆっくりと立たせてくれた。サクラは手袋をとり、「内側の壁ってどっちですか」と聞くと、そのまま左手を伸ばすようアクセルが言う。伸ばしきる手前で、ひんやりとした土の感触。その途端、どくん、と、大きな脈動に触れた。
「サクラ様?」
見えはしないものの皆の視線を感じつつ、サクラは右手で人差し指を立て、しいっという仕草をすれば、地下にいる多くの気配が、ぴたりと止まる。
セルシアの証である額の石を壁に付ければ。
「いる……」
暗闇の中に、鼓動する黒い繭が、サクラの脳裏に浮かび上がった。




