Ⅴ ニットリンデンの楔―xxⅳ
「においは、すみません。どうにも出来そうにないので耐えてもらえますか。でもあの現場だけは、ご覧にならないほうがいい。中にお連れします。全部見てきたけど、サクラ様に精霊を見えるようにしてもらっている近衛騎士の誰も、それらしきものを見つけられませんでした」
「中には……何が、あるんですか?」
「拷問のあとです。そして彼らもまた、死してなお騎士として、サクラ様に……主君にそれを、見られたくはない」
アクセルの言葉に、サクラはピンクのリボンを受け取った。主君として、見ないことで死した騎士たちの尊厳と誇りを守れるというのなら、是非などない。
少し幅のあるリボンは、サクラの目許を隠すのには十分なものだ。自分で目許を覆えば、バララトがうしろで結んでくれる。
「イリューザーはここにいて」
言えば、ついていくと言うように、体をすり寄せながら一周した。
サクラがつらいのをわかっているのだろうが、嗅覚の鋭いイリューザーにとっては、この環境はよりつらいだろうに。
「地下に降りるまでは運びますね」
失礼します、と言うと、アクセルは難なくサクラを抱き上げ、風を感じるほどの勢いでもって進んで行く。
においと湿り気が濃くなり、空気が変わったことを肌で感じたサクラは地下に着いたことを知る。
「サクラ様、何か、感じますか」
「いえ……。着いたなら、降ろしてください。手を引いてもらえれば、歩けます」
言えば、バララトが言った。
「いや……このまま抱えられていてください、サクラ様。足許も、これは超えていくのは難しい」
超えていく。
何を。
問いたい思いを堪え、「抱えていけそうですか?」と目隠ししたままの顔をアクセルに向けて訊けば、「それくらいはお任せください」と、少し笑ったような声音がした。
地下には、すでに調査として入っているのだろう。多くの人の気配があった。きっと先に行けば、先程入ったクレイセスにも行き会うだろう。




