Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅹⅹⅱ
カイザルの言葉に、サクラはただでさえ痛みのある頭を抱える。騎士が耐えられないほどの現場とは、と、己の想像ばかりたくましくしてしまって。
「とりあえず、入り口までは行きましょう。サクラが繭の位置を感知出来るなら、我々で回収が可能ということも」
クレイセスの言葉に、カイザルが嘆息した。
「本当に……連れて行ったことを、後悔しないでくださいよ、団長」
カイザルの忠告に、サクラもクレイセスも頷いた。
そうして案内された場所は、正面の入り口からは回廊庭園を形成する右側の廊下から、外に出たところだった。
「……!」
確かに、異臭がひどい。
最初にわかるのは饐えたにおい。それに脂臭、血臭、糞便に、死臭が混じり合っているのだと推察が出来た。
サクラは思わず鼻先に手許を遣り、隣でぶしゅんぶしゅんと鼻を鳴らすイリューザーに寄り添う。
そのとき、中から出て来たアクセルが自分を見つけ、報告をしようとする気配はあるものの、急に方向を転換してまっすぐ近くの茂みに行くと、堪えきれないのか膝をついて嘔吐した。
クレイセスは痛ましげにそれを見て、「ここで待っていてください」と、地下へと入って行ってしまう。
そのときにふと、視線を感じた。
(これは……)
(エラルさん?)
その方向に目をやるも、煉瓦塀があるばかりで人の姿はない。
(それに)
もう一つ。
(見えないやつだ……)
そろそろと首を巡らせ、サクラは建物の中に視線をやる。しかしそこには割れた窓枠がぽっかりと口を開けるばかりで、何も見えない。
「サクラ様。これは本当に、やめておかれたほうがいいかもしれません」
バララトが眉根を寄せてそう言ったのにハッとして彼を振り向き、サクラは頷きたい気持ちで、けれど首を横に振った。
「死体があるとか、そんな話じゃ、なさそうですね」
嘔吐きそうになるのを堪えて言えば、バララトは哀しげに目を伏せると、地下への入り口を見ながら言った。




