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Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅹⅹⅰ

「優しい、旦那様と奥様でした。お嬢様も、結婚が決まっていたんです。あいつさえ来なければ、みんな幸せだったのに! 俺が……守らなくてはならなかったのに……っ」


 彼の事情を察し、サクラはきつく目を閉じる。彼は、こちらが推測していた「裏切り」による行為で伯爵一家を陥れた訳ではなかったのだ。死した主の尊厳を守ろうとしていたその姿勢に、ひたすら胸が締め付けられた。


 何もかも、遅かったと思いたくはない。けれど彼らにしれみれば、何もかもが遅かった。


「ご主人の首も、その卵とともにあると、そういうことですね」

 額を床にこすりつけたまま、ディレッティーは首を縦に振った。

 その肩は震えていて。


 サクラはそれ以上を訊くことは出来ず、部屋をあとにした。



 部屋を出て、大きく息をついたところに護衛騎士のカイザルが重い歩みでやって来る。バララトとともにここへの先陣を切ってくれた彼もまた、無傷ではないものの大きな怪我はないようだ。


「報告します。地下への入り口を見つけました」

「ありがとうございます」

「ですが……」

 サクラから目をそらし、カイザルはクレイセスを見て言った。


「お目にかけることは、(はばか)るべき内部かと」

 クレイセスは「そうか」と短く答え、「私が中を確認する。案内を」と動き出すのに、サクラは食い下がる。

「その場所までは行きます」

「ですが……においも、ひどいものです」


 思い出したように、カイザルが軽く嘔吐(えず)くのを堪える仕草をする。彼のこの反応を見るだけでも、地下には凄惨な何かが広がっているのだろう。正直、避けられるなら避けたいが、繭が地下にあるということしかわからない上、先程ディレッティーから得た証言からも、ただ普通に「掘り当てる」ことで見つかるとは思えない。


「覚悟は……しています」

「うーん……」

「それでも吐いたらごめんなさい」

「それくらいで済めば良いのですが。まだ経験の浅い若手は吐きまくってます」

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