Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅹⅹ
バララトの案内で、この地方院で最後まで抵抗した男の元へ行く。
院長の執務室と思しき場所に、ディレッティーは捕らえられていた。
年の頃は三十半ばだろうか。引き攣った表情には狂気を感じる笑みを貼り付け、部屋に入ったサクラを濁った目で睨み付ける。イリューザーが隣で顎を引き、低く威嚇音を発した。
「あなたの取り調べは騎士が行います。わたしが聞きたいのはひとつだけ。サウロスが繭を埋めた場所を教えてください」
「は! 自分で突き止めるんだな! 俺たちにだってわかりゃしねえ。あんな気持ち悪いヤツ……!」
うしろ手に拘束され跪かされたディレッティーは、さもおかしそうに笑いサクラに唾を吐きかける。届かないものの、傍に立っていた騎士が剣の鞘でガン! と彼の背中を打ち、そのまま頭を下げさせた。
「旦那様の首……」
「二アベル卿の首が?」
「奥様の首……お嬢様の首……」
ひっくひっくと、突然泣き出したディレッティーに、サクラは眉をひそめる。
「なんで……なんでもっと早く、来てくれなかった……」
それは、彼がずっと奥に秘めてきた本心だろう。
目の前の現実に、言ったところで仕方がない。
けれどずっと、助けて欲しかったのだ。
「本当に、わからないんだ……。旦那様の首を守りたければ、ここを護れと言われた。俺は……せめて首を、お守りしたくて……!」
「埋めた瞬間を、見てはいないのですか」
「地下回廊を掘ったあとに、庭園の真ん中に立って……上から、金色に光る卵みたいなものを落としていた。それが地中に、溶けるみたいにして消えた」
やはり、どこかを「掘り当てる」のではないらしい、とサクラは思案する。
「伯爵家の人々の首は?」
「そのとき一緒に。お願い……お願いです……」
押さえつけられた姿勢で、それでも膝でにじり寄るようにしてサクラに首を伸ばして訴える。
「返してください……」
一言言うと、涙を流した顔を、額を床にこすりつけた。




