Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅹⅸ
「どうか……存分に、処分を」
「処分?」
「多くの民が殺されました。彼らには、なんの罪もなかった。多くの同胞が吊されました。我々は、助けることも出来なかった。セルシアの御名に、卑怯と臆病の傷をつけた」
疲れ切った表情になった彼はしかし、言い切ったというような清々しさをたたえており、サクラは「騎士」の矜恃の在り方に、やはりずれを感じてしまう。クレイセスをチラリと見れば、「お心のままに」と微笑まれた。
「あなたの所属と、お名前は」
「ニットリンデン営所長、ディランと申します」
そう言って恭しく頭を下げる彼の目の前に行き、サクラは視線を合わせるために屈んだ。そうすれば、この世界では小柄な自分は、おのずと視線を合わせられる。そうして意表を突かれたように目を丸くするディランを、まっすぐに見て言った。
「ディラン。わたしは、あなた方に感謝と尊敬を覚えこそすれ、処分しようと思って来た訳ではありません。呼応を願ってから先の、あなた方の遊撃戦は見事でした。押され気味だった戦局を返してくれたのは、間違いなくあなた方の働きです。闇雲に戦えば無為に死んでしまうことを思えばこそ、これまで耐え難きを忍んでくれていたのでしょう。フィルセインを出し抜くための道を探し続けてくださったことに、改めて深謝します。恩賞については、また日を改めさせてください。今は、ただ休息を。あなた方は、疲れすぎている」
サクラの言葉に、すすり泣く声が上がった。それと同時に、「まだ動けます!」と涙ながらに訴えた若者に、「私も」「私も」と声が上がる。
「それなら……手を貸してください。義憤に駆られた騎士たちが吊され、遺体は放置されたと聞いています。彼らを埋葬したい。体力に余力のある人だけで構いません。怪我や病気を得ている人は幕舎に」
言えば、「御意!」と噛み締めるようにして声が放たれる。
サクラは皆に頷くと、一歩うしろで控えているクレイセスを振り向く。視線を受けて首肯した彼にサクラも頷き、「ディレッティーのところに行きます」と、バララトに視線を投げて立ち上がった。




