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Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅹⅷ

「ぐ……」

「サクラ?」

「サクラ様?!」


 荒れ果てた院内を抜けて回廊庭園に来たところで、サクラは激しい痛みに吐き気を覚えて立ち止まった。心配するクレイセスや護衛騎士たちを、手を掲げて大丈夫だと押しとどめる。()り上がってくるものを辛うじて抑え、イリューザーの鬣に顔を埋め呼吸を整えてから、整然と並んで騎士の正礼をしたまま待つバシュラフたちのところへと歩いた。



(おもて)を上げてください」


 早朝から始まった戦いは、正午を前に決着がついた。回廊庭園全体が明るく照らされている中、顔を上げた彼らの顔は、一人一人がよく見える。総勢で百名ほどもいるだろうか。中にはひどく年若い者もいて、一見して無傷の者などいない。


「長きにわたり、折れずによく耐えてくださいました。この戦いに勝利をもたらしてくださったこと、心より感謝いたします。まずは皆、体を休めてください」


 言えば、バシュラフよりもさらに年上と見られる屈強な体つきの男が、「恐れながら」と声を発した。


「我々は、この地の治安を任されておきながら、民を……救うこと(あた)わず……」

 降り積もった思いが込み上げるのか、震えた声にサクラは言った。


「状況は聞いています。その中にあって、無理に命を散らすような決断をしなかったことに、わたしは安堵しています」

「ですが……! やつらの所業を見かねて散った若い者たちも多く……私どもは騎士を称しながらおめおめと生き長らえてしまい……」


 胸に去来する思いが、数々あるのだろう。最後まで紡がれることなく(しぼ)みゆく声に、サクラは問う。

「何を……望んでいらっしゃるのでしょうか」


 彼らが見てきた現実は、サクラの想像を超えるものだろう。彼らの気持ちに報いることがどういうことなのか、考えたけれどわからなかった。きっと、「待つ」にはあまりに長い時間だったろう。目の前で同胞が散りゆく様を、踏みにじられる尊厳を、ただひたすらに耐えなくてはならない、それだけの時間は。

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