Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅶ
手を、誰かが握っている。
ひどい痛みがない程度に、頬を叩かれる感覚。
「…………────サクラ!」
遠かった声が至近距離で聞こえ、サクラはびっくりして目を開けた。
途端に覚える、体中の痛み。
目の前には五人の姿があり、青ざめたクレイセス、涙を浮かべたバララトとツイード、もう涙に濡れているカイザルにアクセルと、表情は様々だ。
「サクラ様……!」
安堵とともに口々に名前を呼ばれ、サクラは一部始終を思い出して瞬いた。
「サクラ。わかりますか」
「わかります……心配かけて、ごめんなさい……」
起き上がろうとすれば、クレイセスが背中に腕を入れて支え、慎重に起こしてくれる。
「一体、何があったのですか」
クレイセスの問いに、サクラはみんなの顔を見回して言った。
「もともとこの土地に来てから、レア・ミネルウァの気配が濃いなと、感じてはいたんです。でも、痛みをそのまま訴えることは人間に負担になると学習してるので、我慢してくれてるのもわかりました。その我慢につながっていたのが従騎士の存在で……でも、進軍するために一度に三人も離してしまったことで、盾が薄い状態になってしまったようなんです。レア・ミネルウァは我慢し難い痛みを、そのまま訴えてきて……」
ヒリつくような喉の痛みを感じて無意識に手をやれば、アクセルが即座に動いて水を差し出す。礼を言って受け取り、サクラはゆっくりと口にした。
「そう……水……お風呂でお湯に浸かってたことも、レア・ミネルウァが訴えやすかった環境だったのかも」
この世界に来たとき、水に浸かることは世界に馴染む行為のひとつと、最初に教わった。世界をめぐる水は、人にとっての体液のようなもの。毎日サンドラが付いてくれていたから、それでもきっと大丈夫だったのだ。
「そういうことでしたか」
バララトが頷き、クレイセスに提案する。




