Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅵ
「そんな……助けることは出来ないんですか。人の都合で歪めてしまったものです」
「そればかりはわかりません。サクラ様が最初に受けた印象で、ご判断ください。もしも助けられるのならば、そのときはあなたの守りとなりましょう」
ユリウスは微笑み、さあ、と手を伸ばす。
「サクラ様には聞こえないかも知れないが、クレイセス様をはじめ、護衛騎士たちが切羽詰まった声であなたを呼んでいます。そろそろ、目覚めてやらなくては可哀相だ」
サクラは穏やかに微笑む彼に、「もうひとつだけ」と最後の問いを投げかけた。
「ユリウスさんは……どこに、還るんですか……?」
その問いに、ユリウスは不思議そうに目を見開いてサクラを見つめていたが、やがて微笑んだ。
「許されるなら、あなたがレア・ミネルウァとした、約束の先に」
「それは……」
「あなたならそれも成せると、本気で信じています。レア・ミネルウァでの生をまた繰り返したいとは思わない私に、生まれ変われる世界をください、サクラ様。そこで生まれる最初の命に、私はなりたい」
ユリウスの願いに、サクラは言葉にし難い思いで微笑んだ。
「約束ばっかり、増えてくなあ……」
「律儀なあなたは、それを抱えている限り歩き続けるでしょうから」
少し意地の悪い笑みを浮かべたユリウスに、サクラは涙で目の前がにじむ。
彼が、本気で信じていることだけは、この空間が伝えてくれている。
「最後まで助けて下さって、ありがとうございます。ユリウスさんの還りたい場所にたどり着けるように、頑張ります」
「お待ちしていますよ」
そう言うと、ユリウスは手袋をしていない大きな手で、サクラの目許を遮った。
*◇*◇*◇*
「────! ────!!」
「──っ────ま!」
声が、遠くから聞こえる。
見知った人間の声だとは思うが、どこかぼんやりとしていて、思い出せない。
「────ラ様! サクラ様!」
「目を開けてください!」
「どうか、どうか!」




