Ⅴ ニットリンデンの楔─ⅴ
ユリウスの説明に、そうだったのかとサクラはうなだれたままの黒いオルゴンを見つめた。それは全身で、ごめんなさいをしているようだ。
「ごめんね。ずっとずっと痛いのを我慢してくれてるのに、なかなか前に進めなくて」
そう言ってイリューザーにするように、うなだれている鼻先を包むようにして抱きしめれば、レア・ミネルウァは甘えるように顔を埋めてくる。
「もうひとつだけ、わかるなら教えてください。ニットリンデンの楔を抜けとダールガットの精霊に教えられました。楔って、なんですか?」
レア・ミネルウァを抱きしめたまま顔を上げて問えば、ユリウスはこともなげに答えた。
「繭です」
「繭?」
「サウロスは生まれたばかりの精霊を繭に封じ、ニットリンデンの地下に埋めました。恐らく、フィルセインが攻略した土地にはこれらが埋められています。そうすることで世界の弱体化を図り、己の言うことを聞かせようとしているのです」
ユリウスの説明に、サクラは首を傾げる。
「精霊が埋まってるなら、精霊がレア・ミネルウァを助けられないんですか?」
「繭に封じられた精霊は、人の血を浴びせられ、怨嗟の声を上げている。それは世界にとって、人の声よりも直接世界に響くものです。レア・ミネルウァは、骨を穿たれるような痛みを感じている」
それは、サクラもわかる。高熱が続いた時分、体中が痛かった。あれは、レア・ミネルウァが感じているものを、人の身に写し取らせようとしたのだろう。あの痛みがずっと続いているのだと思うと、早く軽減させたいと思う。そしてそんな凄惨な状況下に置かれている精霊も、助け出したい。
いつまでも膝をついたまま話をするユリウスを引っ張り上げて立たせ、サクラはさらなる疑問を投げかける。
「繭の中の精霊は? 解放すれば、自分で帰れるんでしょうか」
「いいえ。怨嗟に包まれた精霊は、攻撃的なものに変質しているかと。消失させるのが、安全かと存じます」




