Ⅳ 手掛かり─ⅹⅹⅵ
「そういうふうにからかわれるのも好きじゃありません。今回のことは感謝していますが、自殺行為に等しい真似はやめてください。イリューザー、お見送り」
「え? ちょっと! いやマジで?!」
イリューザーがのそりのそりとデュエルに近付き、鼻先でぐいぐい出口へと追いやる。往生際悪く抵抗するデュエルだが、イリューザーは尻尾でぱしん! と背中をはたくと、「いってえ!」と抗議する彼を尻で以て外に突き飛ばした。数段しかないが浅い階段を転げ落ちる音がして、サクラは溜息をつく。
同時にクレイセスの堪えかねたような笑い声がして、サクラは振り向いた。
「妙なのに懐かれましたね。対応が毅然としていることには安心しましたが。また忍び込まれても面倒です。ビルトールとアルゼットを外に置いておきますので、何かあればすぐに呼んでください」
「はい。わたし……やっておくこととかはありますか」
クレイセスは少し考え。
「サンドラは恐らくこのまま離れます。明日の朝この幕舎も畳んで移動を開始するので、触られたくない荷物などは片付けておいてください」
頷けば、クレイセスもそのまま出て行った。
サクラは戻ってきたイリューザーを存分に褒めてやりながら、地図に記されたニットリンデンの文字を、じっと見つめる。ダールガットの精霊が教えてくれた「楔」の在処に、思いを馳せて。




