第Ⅰ話 《魔窮の牢獄》
理想郷都市「 」。
かつて、始祖―――は異種族が棲む安寧の楽園を築くため悪魔に禱りを捧げ人間の絶滅を願い、創造した幻想郷。
―――のはずだった。
『氷禍の虚塔』に厳重に封印された絶禍の鳳玉は世界の安寧と秩序を制御するシステムが構築されていた。
しかし、神の加護に愛され信仰する数多の人間に裏切られた神姫を冠した少女エルミナは絶禍の鳳玉の破壊と始祖の血を廻り、神の加護に忌み嫌われ人間に愛された魔姫ネビュリスと対峙する。
いわゆる〝擬彩されし神魔戦線〟は天上世界を戦禍に巻き込み数多の死骸と化した人間の犠牲を払い絶えず繰り返され、魔姫を象徴とする少女の漆黒に染まる黒翼はエルミナの天魔術で具現化により蒼い雷光を帯びた龍に片翼を嚙み砕かれるとネビュリスは制御不能に陥り雪原の地に堕ちていく。
そして、意識が回復した少女が目覚めた場所は氷禍の燕邸だ。
意識が溺れ、自身を蔑み、敵を殺す。
この感情が齎す災厄が世界の秩序を蝕んでいく。
――――――すべては「アインツヴェルンの心臓」を喰うために。
煌歴2153年。
魔煌都市ノインエルカディア―――地下第三層、魔窮の牢獄にて。
そこはあらゆる陽射を遮断し、漆黒に染まる暗闇が延々と続く渡り廊下に淡い輝きを発している蝋燭が道を照らしていく。
地下の大空洞に都市を築き上げた吸血種らは天敵である地上の陽光を嫌う習性がある。
それは、微量の紫外線を含むほんのわずかな陽光であっても白磁の肌は一瞬で焼き焦げてしまう。
さて、吸血種は血に飢えた生き物だ。
飢餓状態の獣は理性を失い、暴走する。
そのため、定期的に濃厚な血液を摂取しなくてはいけないわけだがその供給源は未成熟な人間の血液で、それらは吸血種の奴隷に堕ちていた。
「おい!次の奴隷は席に座れ。……ん?まだ七歳の餓鬼じゃねぇか」
「あぁ。だが、未成熟な子供の血液は大人にはない濃厚で舌触りがよく甘美な味だ。これはあの御方も大変喜ばれるだろうな」
資料に記載された健康状態報告書に視線を落とした吸血種のひとりが奴隷となった少女の華奢な身体を舐めまわす様に観察する。
上位始祖会が統治する魔煌都市ノインエルカディアの奴隷に堕ちた人間は、吸血種に血を提供する対価として生存権……つまりは命の保証が約束されていた。
「……ッ……ぅ、もう……や、め」
痛みに顔をしかめる少女の瞳からはポロポロと涙が零れ、嗚咽を漏らす。
しかし、次の瞬間。
「え?」
少女の瞳に映る景色が空中でくるりと回転し、大量の血飛沫が飛び散った。ゴトッと衝撃音が聞こえたのと同時に宙に舞った何かが地面に落ちる。
それはーーー、真紅に染まる少女の首だった。
「餓鬼が、黙れ」
癪に障った吸血種のひとりが華奢な少女の首を切り裂いた。
首のない血染めの身体だけが座席に固定された状態で放置されている。
「おい、貴重な餌だぜ?」
「……ハッ、人間の家畜なんてこの崩壊した世界で探せばいくらでも存在する。たかが一匹殺したくらいで、あの御方の逆鱗には触れるまい」
「くくっ。そうだな」
その後、魔煌都市全域に鳴り響く警報音に反応した吸血種らは摂取行為を一時中断させ、暗闇へと姿を消した。
皆様、お久し振りです。久遠鏡夜です。
約3カ月ほど投稿が出来ずに誠に申し訳ありませんでした。仕事の蓄積される疲労で投稿ペースが大変遅れていましたが、この度最新話を投稿させて頂きました。
不定期投稿になりますので、期間が空いてしまう可能性がありますがブラシュアップさせて頂き、より良い作品の投稿を続けていきたいと思います。
それでは皆様、次回の更新もお楽しみに!!