第Ⅱ話 《穢れた神姫と業火の憎悪Ⅱ》
「ねぇ、ネビュリス。あなたは《アインツヴェルン》を聞いたことがある?」
「……ヴェ……ルン?」
「世界の理を破滅へ導く叛逆者よ。この幻想に満ちた銀世界も、戦紅に染まる戦場も、わたしが―――に変異したことも、すべて《アインツヴェルン》の仕業なの」
私の意識は霞み朦朧とするなか途切れ途切れで会話を続けた。
「……エル……ミナ。キサマは、この世界に何を……?」
「くすっ。そうね。わたしの願いはすべての人間を絶滅させて神々が支配する新たな楽園〝理想郷〟を創造すること。それを実現させる為に《アインツヴェルン》はわたしの目指す理想世界に害悪な存在なの。だからね、……その心臓を喰らう。世界の理を破滅に導くのはわたしだけよ!!」
彼女の紺藍の瞳からは慄きを感じるほど冷たく、いくらか悪魔的にも見える鋭利な視線を細め恍惚の表情を浮かべていた。
しかし、私の意識は徐々に落ちてゆきそこで記憶は途切れた。
脳裏には常々あの悪夢がよぎり、悔恨の日々に蝕まれていく。
……私は、どこで道を違えたのか。
過去に眠る記憶を呼び覚まして、過去の記憶を蝕んで、穢して、憐れみを感じた。
あの時にエルミナの隣に寄り添えていたら、
あの時に彼女の傷心を癒すことが出来ていれば結果は違っていたのかもしれない。
だけど、その願いはもう……叶わない。
『氷禍の虚塔』の最深部に眠る―――〝氷禍の燕邸〟。
そこで私は神姫エルミナによって幽閉される。
いや……正確にいえば私の身体は黒曜石から錬成した六重の封魔鎖で束縛され、天上世界の領域から隔離されてしまった。
いまの私は自分の意志で身体を動かすこともままならない。
「……アインツ……ヴェルン」
氷禍の燕邸を支配する静謐に満ちた空気のなか幽閉された少女はボソッと呟いた。
その言葉が意味するモノ。
それが私たちの絆を引き裂いて、
それがエルミナの運命を壊して、
それが天上世界を終焉へ導いた。
「……そうか、運命を悉く壊すのは《アインツヴェルン》か」
ギリッ。
くだらぬな。アインツヴェルンがこの世界の理を破滅へ導くならばキサマが願う理想も、希望も、渇望もすべて破壊して―――。
私が《アインツヴェルン》の心臓を喰らう。
そして、始祖の血を廻る〝擬彩されし神魔戦線〟の終結から約1500年の月日が経過した。
序章〝銀世界と昏き冥府の加護〟の第Ⅱ話はいかがでしょうか?
第Ⅱ話は少し短いですがこの序章を紡ぐ過去の物語はもう少し続きます。また新たなストーリー構想も追加予定になりますのでそれでは皆様、次回の更新もお楽しみに!!