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第三十四話

 マリオネット・フォビアは梅貫の母親を殺してまだ七十時間経過していない。

 その状態で使えばまた三日はその場所に戻り動けない。

 それを承知で雨狩は思考し答える。


「重ね掛けも出来るんだけど、ますます距離が狭まるのよね……全く賢い坊やね。じゃあこれはどう?」


 そう言って山上は鞄から刺身包丁を取り出そうとする。


「魔炎スカルフレイム! 対象の周りに炎を撒け!」


 その時に出石眞は、背中に具現化して隠していた爪の無い状態の髑髏の小手を山上に向ける。

 炎を作り、放つ。


「雨狩君、デスバインドで人質を拘束して自分のところまで動かして!」


 出石眞の行為を雨狩は高速で理解する。


「はいっ! デスバインド発動っ!」 


「熱っ! アッツイ! この炎女っ! 服が煤で汚れるじゃない! 下民の癖に高貴なあたしになんてことを命令よ! その能力止めなさいよ!」


 雨狩の指先から黒い鎖が飛び出る。

 その鎖は山上ではなく、捉えられている井田に巻き付く。

 井田が鎖と共に空中に放り上げられる。


「何なの!? あの鎖! くっそ! 炎が周りにあって進め無いじゃない! 早く解きなさいよ! 殺すわよっ! 殺されたいの? ぶっ殺すわよ!?」


 山上が地団太を踏んでいる間に、雨狩はデスバインドの黒い鎖を全身に巻き付かれた井田に地面に叩きつける。

 黒い鎖によって衝撃を吸収したのか、デスバインドを雨狩が解除した時には、意識のある無傷の井田が雨狩のそばにいた。


「早く逃げて警察署にっ!」


「すまねぇ! 雨狩ッ……!」


 井田が全速力で逃げる。


「急いでください!」


 雨狩がそう言うと井田は、雨狩達が侵入した光が差す倉庫の焦げ付いた穴に向かって走っていく。


「山上、大人しくした方が良いわよ? その刃物を捨てなさい」


「くそっ! くそっ! このクソ女!」


「あっそ、炎の焼き加減をミディアムからヴェルダンにしても良いんだけど?」


「わかった! 分かった! 解ったよ! あぁ~! もう、やだああああああ!!」


 半狂乱のように叫んだ山上は刺身包丁を出石眞に向かって投擲した。


「危ないっ!」


 雨狩が叫ぶと同時に、出石眞は右側に首を向けて飛んでくる刺身包丁を躱す。

 その光景に雨狩は驚く。


(凄い反射神経だ。出石眞さんは今までどんな修羅場をくぐってきたんっだろう? エクソシストは一体どんな訓練をしているのだろうか? いや、そんなこと考えている場合じゃない。飯田さんに連絡して、警察を!)


 雨狩がスマートフォンを取り出す、警察にダイヤルする。

 炎を解除した出石眞は近づいて、戦意を無くし座り込んだ山上の元に近づく。


「自首するわよ。あんたに殺されちゃたまったもんじゃないからね」


 そう言って山上は鞄に向かって投げる。

 ガシャンと落ちた鞄からスタンガンやビデオカメラ、大学の教材である講義の本、化粧道具などが開いたチャックから出る。

 出石眞はそこに視線をやる。 

 雨狩は飯田に連絡を入れる。


「雨狩君、警察かね? 今警察署にいるよ」


 飯田が出る。


「警察の方に変わって下さい」


「はい、埼玉県警です。話は伺っております。場所はどこですか?」


 雨狩は場所を即座に言う。


「最寄りの警察官が車両できます、現場からお逃げください。後で署に来て、詳しい聴取を」


 バンッ!

 その時に、その場にふさわしくない大きな音が倉庫に響く。

 雨狩はそれを見て、スマートフォンを落とす。


「もしもし! もしもし!」


 スマートフォンから警察の声が響くが拾う暇も無かった。

 出石眞が倒れ込んでいる。

 肩口から赤が広がる。

 流れる血液は白の服を赤に染めてゆく。


「切り札。取っといて良かったわぁ~。あっはっはっはぁ!!」


 山上は片手にコルトパイソンを持っている。


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