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第三十一話

 雨狩は梅貫に事務的に話す。


「僕は二年生の雨狩です。変なことを聞きますが、貴方は見たこともない異形に会ったことはありますか?」


 ツインテールの後輩は立ち上がり、平静を取り戻して雨狩の異常な内容に答える。


「あたしは一年C組の梅貫。異形って何? あたしは……お母さんが誰かに殺されたの」


「警察が何とかしてくれるよ。親戚だっているんだよ? 落ち着いてよ」


「警察の捜査で自殺扱いにされているの。でもあたしは見たの、そこに誰かがいた。横顔だけどだけど成人した女性だった」


「その成人した女性は能力者でしょう。屋上での話からそう思います」


「能力者? 訳わからないわ」


「雨狩君、事情はだいたい歩いていく中で聞いたけど、本当にそんなことがあるの?」


 喫茶店内にて北井達も疑問を持つ。


「ケイちゃん。私がコンビニ前で倒れていたの覚えてる?」


「ん? ああ、あったわね」


「あれは私の能力モータルブレイクザワールドの使用デメリットなんだよ」


「ほほう。なら納得だな。那内があんなヘマしなからな。そうだろう? 美空木?」


「ええ、同じテニス部でしたけど、あんな那内さん初めてでしたわ~」


「でも実際に見てないとデメリットも何も……」


「能力は出石眞さんと言う方がお見せします。それで北井さん達も信じるでしょう。梅貫さん、殺されたのはいつですか?」


「今月の23日よ」


(殺害は沢城に会う前の二日前の出来事ですね。それまで死を受け入れられずに茫然としていたのかも……)


「梅貫さん、辛かったでしょう。一杯泣いたら、お茶飲んで落ち着こう、ね?」


「もう大丈夫。屋上で私藁にもすがる思いだったし、大人たちは信じてくれなかった。那内先輩のおかげで安心して落ち着けました」


「むむっ! なにやらスタイルの良いフォギーベージュの髪型の綺麗な女性がこっちにやってくるぞ」


 飯田がそう言うと雨狩は答える。


「彼女が出石眞さんです。能力は炎を操る魔炎スカルフレイムです」


「ほほう」


「ごめん、少し迷ってたわ。雨狩君。その梅貫さんの母親を殺したって言う女性。この写真の人じゃないかしら?」


 出石眞がそう言って、リストの中から女性の顔写真の載ったシートを見せる。


「個人情報載ってる。なになに? エクソシストハンターの女性? なんかそれっぽいわね」


 北井たちが能力者を信じる。


「まずはそのことも踏まえて、落ち着いて話し合いましょう。行動を起こすのはその後です」



 喫茶店のスターバックスの静かな二階の席に着くと梅貫と那内、雨狩、北井達は席に座る。

 ドリップコーヒー、ホワイトモカ、そしてスターバックスラテをテーブルの上に置いて話す。

 北井達は何も頼まずに沈黙する。


「犯人はどんな人だったの? 外見とか教えてくれればヒントになるんだけど……」


 那内が梅貫に問う。


「はい、服装はキャスケット帽子に茶色ブーツ。白のミニタイトスカートでオフショルダーで肩部分の広い水色のタンクトップをインナーしていた外見でした」


「ずいぶん個性的な服ですね。昨日起きた事件ですよね? まだその恰好のままかもしれない。殺人犯の心理は解りませんが、まだ市に居る可能性もありますね」


 雨狩もスターバックスラテを飲み、糖分で思考を巡らせる。


「警察が自殺と片付けて犯人への捜査をしない間に殺人犯を時効まで野放しに出来ません。申し訳ないですが、被害者の気持ちを考える時間は終わった後にしましょう」


「そうだね……でもこんな能力の話信じるかな? 私だったら信じてないかもしれない」


「人間ですから仕方ないです。他に目立った特徴や先ほど言った殺された現場に何かありませんでしたか?」


 梅貫は頼んだホワイトモカを飲まずに俯いて答える。


「犯人の外見はセミロングのレイヤーカットでアッシュ系なのは間違いないわ。大学生くらいの若い人だった。今日朝に駅前のタクシー乗り場で見かけたの。すぐにタクシーに乗って見失ったけど……」


「電車ではなくタクシーですか……」


「あたし、もう解決できなんだって思うと生きる意味も無くなってきて酷いと思ったから自殺を……」


 梅貫の肩が震える。

 普段は明るいのかツインテールの梅貫の表情が、悲壮な空気に飲まれていく。


「大丈夫だよ! 梅貫さん! 絶対に犯人捕まえて自首させるよ! だからもう自殺なんてしないで、約束だよ」


「う、うん。現場のことも話すね。警察の話だと刺した包丁に指紋があったんだけど……お母さんの指紋でやっぱり自殺だって……」


「ともかく、その同じ仕草をした女性を探して捕えましょう。それで解決に近づけます」


「雨狩君の言うとおりだ。我々も探そうではないか」


「言うと思ったわ、でもあんたは警察にこの事を言っておく役目ね、見つけたら着信を鳴らす。そしてあんたが事情を話した後に警官に出て出動。あんたは警察署に向かって」


「うむ」


「私と北井さんも捜索に向かいますわぁ~」


「ありがとうケイちゃん達、頼りになるよ~」


 那内は梅貫の代わりにホッとする。

 本心では早く犯人を見つけて梅貫を安心させたいのだろう。

 だが、死者は蘇らない。

 皆がそれを受け止めて気持ちが暗くなる。


「見つけたらあたしにも最初に連絡を、倒せるのは雨狩君とあたししかいないわ」


 沈黙の中で出石眞はそう言う。


「さっきのシートの女性に間違いないわね。本部からエクソシストハンターでもあるから、データはある程度あるわ」


「う、うん。確かにこの女性だった。間違いない。さっきまで見てなかったけど、この人だよ!」


 梅貫はそのシートの女性に指をさす。


「ってことはエクソシストハンターの女性か。能力名はともかく相手を操作する能力。この能力でどうやって異形を? まさか沢城が助けたという?」


 雨狩の疑問に出石眞が答える。


「あたり、流石ね、雨狩君。本部もそう言ってたけど、あいつが助けたみたい。それから本部の何名かが殺されている」


「ハンターは組織化されているんですか?」


「それはないわあったら既に殲滅してる。個人個人なのよ。始祖がいない」


「失敗してもあたしのモータルブレイクザワールドがあるよ」


「それはダメです。那内さん自体が危険に陥ります」


「あんた空腹で死にかけてたの忘れたの? あの時あってなければ餓死だったのよ。さっきデメリットって言ってたじゃない。それ禁止ね」


 那内に北井がそう突っ込みを入れる。


「わかった。今回で解決できるように使用は止めておくよ。このシートの女性、山上華也(やまかみかや)を捕まえれば解決だね」



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