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第二十七話

 スマホから心酔したような男の演説じみた声が、雨狩に聞こえる。


「私ね、風を自由自在に使えるんですよ……まあ、同じように世の中の風と言う流れも、警察の権力で捏造して使えるんですけどねぇ。だから暴力に出ない方が賢明ですよ」


(とぼけておこう。ここでデスバインドとモータルブレイクザワールドがバレれば警戒して一万田君が今以上に危ない)


「何を言っているかは分かりませんが、学校が終わり次第、急いで向かいますよ。親にも先生にも伝えませんから、一万田君を無事に返してください」


「取引とは公平な立場で成立するものですよ? 名前くらい名乗ってはいかがですか?」


「雨狩です」


「私はエクソシストハンターの沢城琢磨(さわしろたくま)ですよ」


「……エクソシストハンター?」


「まあ、貴方には関係のないことでしたね。フフフ……」


(エクソシストハンター? 出石眞さんが那内さんのモータルブレイクザワールドを使う前にさりげなく言っていた? 何故僕が能力者だと知っているんだ? ここにも疑問がある)


「続きは例の場所で話しましょう。こっちも他に予約もあるので、それでは良い学校生活を」


 そう言ってプツリっと通話が切れる。


「あ、雨狩っ! ど、どうしよう!」


 白本が涙目で、小刻みに震えている。

 今まで見た事がないくらい子羊の様に、プルプルと藁にもすがる思いで白本は頭を抱えている。


「落ち着いてください。相手は警官です。あのビルは警察署から離れた場所にある。通報すれば一万田君の身が危ういです。ここは従うべきでしょう」


(あのビルは入ったら周りは水色のシートで外が見えない。僕のデスバインドで隙を作るしかない。鉄骨辺りを拘束して引っ張り開発中のビルそのものを崩す? いや、もっといい策があるはずだ)


「雨狩君、いざとなったら私も危険だけど能力を使うよ。死んじゃったら元も子もないし……雨狩君の友達が危険な目に遭うなんて見過ごせないよ。あの悪魔には会えないけど、出石眞さんを見つけられたら何とかなりそうなのに……」


「エクソシストハンター……あるいはそのワードに可能性があるかも?」


「えっ? な、何、雨狩君?」


 不安になる那内。

 その不安を慌てて解こうと雨狩は説明を始める。

 白本は茫然と心ここに在らずだった。


「白本、こんなところに居たのか! そろそろ授業始まるってあんなやべー事態じゃ平常心もクソもないよな」


 井田が柳沢と共に白本を探していたのか、屋上の開いたままのドアから駆け付けた。


「丁度いい所に来ましたね。事情は聞きました。僕に良い考えがあります。それで授業を安全に受けられます」


「なんだよ、そのナイスなアイデイアって……」


「これからいう事を聞いて、放課後に同行してください。良いですね?」


「あ、ああ。つーか、珍しく頼もしいぜ雨狩。何でもお見通しって感じだ」


「いいですか? それは……」



 雨狩は早退を頭痛で済ませて、面倒な本川は見逃すように早退を認めて帰らせる。

 ゆっくりと歩いた雨狩は既に目的地に辿り着いていた。


(学校の時間くらい調べているはずだ。一人遅れてくると言えば集まった人数だけでも能力を試すだろう。その隙をついて、賭けに近いがデスバインドで拘束するしかない。ん? あれは……)


 人気のない目的地に出石眞がいる。


(何故? エクソシストハンターと言う言葉から連想していたが、やはり関連性があったのか様子を見る為に後ろから付けよう)


 雨狩はそう思い、鉄骨の影に隠れてビル内に入っていく。


(井田君達もそろそろ来るはずだ。一万田君を先にどこにいるかさえ把握できれば、そこからデスバインドで移動できる。そうしたら後は沢城から逃げるか、戦うか……)


 雨狩は井田達に伝えた作戦も合わせて、頭の中で作戦を思い描き、進む。


「フフフ……先に来ましたか、しかも意外な客人ですねぇ……」


 ビルの薄暗い闇の中から、スマホの時よりも生々しい沢城の声が響き渡る。


「やっぱりここに居たのね。エクソシストハンターの一人、沢城琢磨……意外な客人って言う事は他にも能力の実験体を集めさせようとしたのね」


 出石眞がそう言って骸の小手を具現化させる。

 手の上で作られた炎の明かりから警察官の男が、薄気味悪く現れる。

 一万田は気を失っているのか、警察官の男の傍の地面に倒れている。

 あの男が沢城だろう。


(一万田君をデスバインドで引きずってこっちに送らないと……でも、出石眞と沢城が位置的にデスバインドしにくいところに居る)


 雨狩がそんな事を思いながら、二人のやり取りを見守る。


「建設中のビルなのに他の作業員はどうしたの?」


「ああ、この時間帯は警察情報網の調べで休みなんですよ。万が一居たとしても、死体は細かく風で刻んで分子レベルで削れば良いだけなので、フフフ……」


「エクソシストハンターって言うのは非道なやつが多いのね。能力を借りてるくせに私達エクソシストのメンバーを何名か殺して姿をくらますのだから」


「せっかくの能力ですよ、人間相手に使わなければ勿体ないじゃないですか? ああ、そうそう随分前に異形に襲われている女性を助けましたよ。同じくエクソシストハンターになるように決めてもらってね」


 まだ二人は動いていない。

 話し合いを続けている。


(気になる内容だが、今は一万田君を救助するのが先だ。井田君達もあと少しで來る時間……早く始まれ)


「沢城、あんたはエクソシストのメンバーを八名殺してる。本部から殺せと言われているわ。それにその女性の名前、無駄だと思うけど知りたいわね」


「確か、山上っと名乗っていましたね。操作能力マリオネット・フォビア。エクソシストハンターリストに載っているでしょう?」


「ああ、私が捜している一人ね。異形と戦える能力じゃないけど、そういう経緯でエクソシストハンターになったのね。彼女もあなたほどじゃないにしても発見する限りでは、五名殺しているわ」


「ほう。順調そうで何より、私達エクソシストハンターは組織化されていないので探すのは困難だったでしょう?」


「ええ、ここ数日この付近にいると言うエクソシスト本部の情報で、長く捜索してたからね。殺すわ」


「フフフ……私の能力ウインド・ザ・キラークリエイト。味わうが良い」


 西部劇の様な殺し合いを始めるピリッとした空気に変わる。


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