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第二十二話

「お前に行かれたら、俺はどうする? お前を俺の作品に出来ない。俺に溺れてくれない……心が乾くんだ……確認し合おう互いに貪るように」


 一万田が目を細めて、女性でも普段口説いているのか妙なオーラを出してハスキーな声で話す。

 普段見ない一万田の妙に色気のある夜の貌だった。

 同性である雨狩と白本はゾワッとして体温が下がる。


「あ~、一万田。その……重いし、ホモってのが……二つの意味でキツい。エロゲーやエロ同人のしすぎだぞ。ってかそっち方面もやるのか? 穴は三つと二つだぞ。ゲームでもスロットで二つと三つじゃだいぶ違うから、いつも通りに三つにしとけ。いやぁ、今日は雨狩も一万田もなんかカミングアウトしてるし、金搾り取る紙切れの人気カードゲームのブースターパックの発売日か? 強力なレアカード次から次へと俺に紹介するなよ!? 平成は終わったって言う新時代到来系のノリとか、制御不能だからここらで冗談は止めロッテ! 一万田、ワールド入ってんじゃねーよ。マジ寒だわ」


 白本も焦っているのか、長々と話を続けて変な気分になる。

 そのまま白本が一万田の腕を、雨狩から離す。


「す、すいません、失礼しました。急いでいるのでこれでっ!」


 雨狩は那内の家に向かう。

 この場から逃げ出したい気持ちで全力で走る。



「う~、不味い。空腹で、あ、歩けないよ~……」


 那内は使用した能力のデメリットか空腹が続き、飯田達が買い物をしていたコンビニの前でしゃがみ込んでいた。

 財布からお金を取り出そうにも、お店の前で動けずに食べれない。

 おにぎり一つなどでは腹が収まらず、ましてや那内には財布に六千円あるが手の動きが震えて不安定。

 このままだと空腹のあまり食欲が無くなり、血圧も上がり、不眠になる。


「……」


 那内は声も考えることも出来なくなっていた。

 思考すれば空腹が増す。

 餓死の一歩手前の域に達していた。


「……っ!? ……っ!?」


 誰かの声が聞こえる。

 那内は首を上げる。

 その時にお腹がグゥ~っとなる。

 手に力が入らなくなる。

 その時に口に温かい物が入り込む。

 那内はそれが何かは分からないが噛り付く。

 口内に広がる肉の味。

 穀物と肉とチーズが混じり合う味を脳が確認せずに食べる。

 ぼやけていた視界が、やや正常になる。

 度の強い眼鏡を外した裸眼のようなぼやけがなくなる。

 次に口に味噌の付いた野菜が入っていく。

 野菜スティックだと那内は思考を取り戻す。


「立てる? 箸使えるなら冷やしうどんあるから食べなよ。ほれ、恥ずかしがるより生存でしょ?」


 聞き覚えのある声。

 そんなことを思いながら、那内は口に卵の入った冷やし天たまうどんを震える拙い箸遣いで早いペースで食べる。

 汁により水分も補給され力が入る。

 味が旨いと感じるようになる。

 体に余裕が出来る。


「お、美味しい。ありがとうございます……ええと、どなたでしょうか~?」


「親しき仲にも礼儀ありを心得ていて大変よろしい。ほれ、落とした財布拾ったから早くコンビニ行ってきな」


「け、ケイちゃん!」


 声の主は北井だった。


「ケイちゃんだぁ! よかったぁ! あっ、お腹減ったぁ……ごめん、食べてくるから待ってて!」


「あー、逆に待った。コンビニの焼き肉弁当を美空木が持ってきたから、まずそれ食べてからコンビニで食品買って食べてこい」


「はっはっはっ! 北井、最後は日本語がおかしいぞ! 倒れていた那内を見て駆け付けたのは君だろう? まったく、銀だこのたこ焼き6000円分じゃ足りない那内の辛そうな分かりやすい空腹顔を見て、駆け付けたのは私が先だぞ? 先駆者には敬意を表すものだぞ?」


 飯田がそう言って、那内に山賊おにぎりをビニールを開けて渡す。


「イイちゃん、ありがとう! 私、みんな無事で凄く嬉しいよぉ!」


 那内は異形の一件もあり、疲れがたまったのか泣きながらおにぎりを頬張っていた。


「焼肉弁当お待ちしましたわ~。三加さん。あらら、鼻水流しちゃ美人が台無しですわ。家出でもしましたの?」


 焼肉弁当を渡した美空木と、那内の流した涙と鼻水を介護のようにハンカチで丁寧に拭く飯田。


「モコちゃん! 幻じゃないよね?」


「本物ですわぁ~。さあ、ご主人様お食べ下さいまし~」


「ん? 誰かこっちに向かって走ってくるわよ。あの人って確か隣のクラスの雨狩君じゃないの?」


 北井がそう言って、手を振る。

 ご飯を食べ終わった那内は立ち上がり、財布から二千円ずつ渡そうとする。

 しかし飯田や美空木は首を横に振る。


「おおっ、雨狩君ではないか。意外と行動力があって、走りたいほどにエネルギッシュな一面もあるのだな! 勉強を教えてもらいたいほどだ」


 飯田が感心したように腕を組む。


「えっ? 何言っているの? 雨狩君に図書館で私に勉強教えてくれるの頼んだのイイちゃん達だよ?」


「ははっ、何を言っているんだ? 彼は美空木に総菜パンを奢ってくれたのだろう?」


「図書館で勉強も悪くはないですわね~。いつも私達が教えているから、雨狩さんにも教えてもられば良いですわぁ~」


 雑談の中で、那内は気付く。

 自分の借りた能力。

 モータルブレイクザワールドの効果。

 不幸な出来事を改変させる力。


「そんな……まさか……噓でしょ?」


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