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第十六話

(やっぱりあいつは悪魔なのか? そんな安易な言葉で済ますにしては、あまりにも不気味な存在だった)


「私はあいつを退治するために関東エリアの支部に属するエクソシストの能力者って言えば分かるかしら?」


 その出石眞の普段聞きなれない言葉に雨狩は反応する。


「支部? エクソシスト? 能力者? 証拠はあるんですか? あの時の炎はタダの科学的なでっち上げで僕らを騙すためでは?」


 雨狩はそうだと言って欲しかった。

 それで済めばこんな異常な事件にすべてフィクションであると思いたい。

 いつもの日常に戻り井田達のノートを書き留め、那内は北井達との日常を取り戻せると切に願っていた。


「能力者とはまぁ、こういう力を借りられるものよ。今見せてあげる」


 そう言って出石眞は両手を見せて、両手の周りに緑の光が輝く。


「手品?」


「そう見えるの? 雨狩君? これが私の悪魔退治に借りた能力……」


 緑の光が消える。

 その後にいつの間にか両手には髑髏の小手のようなものを付けている。

 その先端に三本の大きな茶色の爪が取り付けられていた。


「魔炎・スカルフレイム。それが私がエクソシストとして支部に借りた能力よ」


「ま、魔法なの?」


 那内はやっと声が出たのか、この出来事に非現実性を見たのか困惑しながらも興味と驚きが声色に混じっていた。


「あら、どうやら彼女落ち着いてきたみたいね。能力出して良かったわ」


「……確かに、科学では解明できないようですね。小型の兵器を使っているようには思えない。手品やトリックにしても、あんな炎や具現化された小手などはまず準備が入りますしね」


 雨狩はこの光景に、色々と想像しながら那内が離した左手を拳を作り、顎に添えて考え込む。


「あ~あ、なんだか雨狩君ばかり私に証拠を見せろ、質問させろってばかりで酷いわね。大人の女をからかう高校生は世間の女性に好ましくないわね」


「あなたが味方だとはまだ思えません。ですがあの悪魔と言う得体のしれないものよりは、言葉を話せるという意味では友好的なのは認めます」


「ふーん、宇宙人扱い? まっ、いいけど、それじゃあ次にエクソシストや支部については聞きたいの? あとこの能力は長期間使えるけど、ここはまだ無人とは言え昼の駐車場だから長くしたら人の目もあるでしょう。解除するわね」


 そう言って出石眞は緑色の光を手元に輝かせて、炎を徐々に小さくして消す。

 小手と爪を光が消える頃には、消滅したかのように炎は消えた。


「解除も出来る訳か……あなた確か能力を借りれると言ってましたね?」


「ええっ、立ち話も疲れるし、詳しいことは喫茶店のスターバックスにでも行って、お話したいくらいね。でもその前に……」


 鞄から出石眞は何かを出そうとした。


「何をする気ですか!」


 雨狩は思わず身構える。


「お金出すだけよ。あなたの服はスタバに行くにはちょっと酷いから、ユニクロにでも行けば? 着替えて欲しいくらいだから奢ろうかなって」


「あの男も支部と言うエクソシストの人間なんですか?」


「? 何の事? それ、詳しく教えてくれないかしら?」


 出石眞は不思議そうな表情をする。

 那内は思い出さないようにしている様子で、恐怖を蘇らせたくない心境だった。


(どうやら推測だが、悪魔側かもしれない。それなら何故僕を最初に殺さなかった? あの金髪の男の言動が気になる。うかつに言うのは危険か……)


「い、出石眞さんは何で埼玉に来たんですか? あの、ううっ……悪魔を退治するためなんですか?」


 那内は言いながら、考え込む。

 それを気にせずに出石眞は平静に答える。


「私たちエクソシストは、ああいう異形の悪魔を消滅させるために結成された世界組織で裏社会で活動しているの」


「……今まであんな怖いのいませんでしたよ」


「那内ちゃん。あいつらは表に出る前に、私達エクソシストが始末するのよ。頻繁って訳じゃないわ。何かの召喚の儀をする破滅願望の強い無責任な大量殺人者のような悪いやつらが居てね。そいつらの召喚する異形の悪魔と呼ぶものを始末するのが、私達エクソシストの仕事なの」


「それじゃあ、もう私達安心して暮らせるんですね。出石眞さんが、えーと、エ、エクソシストとして退治してくれるからもう安心して良いんですね?」


 那内は不安が和らいだのか、解決こそしていないが一時的な安堵が見られた。


(エクソシスト……今までこんな事例は世界にない。裏社会のその組織はマスコミや政府を操作するだけの権限を持っているということになる。実際に目撃したものを記憶操作も出来るのでは? オカルトが実在するとは信じたくはないが、科学的検証が出来ない)


 雨狩は考えるせいか、酷く冷静になり黙ってばかりである。


「あ、雨狩君。難しい顔しなくても、大丈夫だよ。出石眞さんがなんとかしてくれるから安心だよ」


「出石眞さん」


「何かしら?」


「能力を借りて悪用するものや悪魔などを召喚する能力者もいるのなら、その人を拘束すればエクソシストは解体するのでは?」


 雨狩は事務的に話す。

 出石眞は鞄から出した財布からユニクロ用の三万円を見せるが雨狩は首を横に振る。

 ため息をついた出石眞は、財布にお金を戻して答える。


「さっきからだけど、あなた賢いし、鋭いわね、私のエクソシストの組織なら間違いなく秀才と呼びたくなるわ。確かにそういう能力者はいるわ。ここ最近エクソシストから抜けて、能力を悪用する奴もこの埼玉にいるって情報もあるくらいよ。エクソシストハンターって言うのもその中にはいるけどね」


「その人も今回のことに絡んでいそうですね。そもそも悪魔が呼べるという事態で、能力者がいると仮定すれば原因はその……」


「あ、雨狩君~。私難しい話は苦手だよ~。出石眞さんは炎が使えて、あいつをやっつけちゃうんだからもうこういうこと起きないよ~」


 那内はそう言って、雨狩の背中に抱き着く。


「えっ! ちょ、ちょっと那内さん。考えているんですから、異性の体に触れちゃダメですよ!」


 突然の思考停止に雨狩は考えを中断させられる。


「……近くに河川敷があるわよね? ここに来る前に調査済みなんだけど、そこに行かない? 歩いて十二分だけど、危害は加えないわ。そこは信じてほしいわね」


「え、ええ。そうしましょう。少なくともあなたが僕たちの身を夜に守ってくれたのは事実です」

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