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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ8『来いよルーキーとヒロは言った』

 十三時十分前。アヤト達はトレーニングルームに入る。アシガル機隊の面々はおもいおもいのストレッチや準備運動をしていたが、アヤト達三人の姿を確認すると素早く整列する。

 道守達三人はひたいにうっすらと汗を浮かべていた。その汗をアヤトはちらりと見る。


「どうやら、これから何を行うか理解しているようでなによりだ。実際に始める前に、まずは俺の質問に答えて貰う。常盤マサミチ軍曹。なぜ俺たち魔法士はアンノウンを殺せる?」


「はい! アンノウンの代謝を我々魔法士の魔力は阻害。停止させる事が可能であるためです」




 アンノウンもまたコア魔法士同様に魔力と個体によっては固有魔法を持っている。

 往々にして、固有魔法を持っている。そしてそれが強力である。この二点が高ティア判定の重要な判断基準となるが、どのティア帯のアンノウンでも持っている能力。それは瞬間回復と言わざるを得ない異常なまでの代謝だ。


 既存の兵器でアンノウンを倒せない大きな理由が、この異常なまでの代謝であり、ミサイルや機銃程度で与えた損傷では即座に回復されてしまう。


 核ミサイルで何とか倒せるというのも、代謝による回復を押し切るように損害を与える事が可能であったからだ。

 つまりゴーレムサイズの刀を振るうから、巨大な銃弾を当てるから、それがアンノウンにダメージを与える訳ではない。


 コア魔法士が無意識に流している魔力。それが武器を通してアンノウンに流れ込み、代謝を阻害、停止させる。それにより致命傷を負わせる事が可能になる。




「その通りだ。基礎的な事だから答えられて当然だがな。次に常盤アカネ軍曹。なぜ危険を冒してまでアンノウンに近接攻撃を仕掛ける事が有効なのか。それを説明してみろ」


「は、はい! 流れている無意識の魔力は発生元である魔法士から物理的に距離が離れることで威力が衰える事が確認されているからです。その為、近接攻撃が有効であると考えられております」


「正解だ。第八支部の『ヤマト』のように狙撃をメインで戦うゴーレムもいるが、あれは豊富で強靭な魔力と、ヘッドコアの固有魔法が狙撃というスタイルと相性がいいからだ。基本的に致命傷を与えるには近接攻撃が有効だ」


 アヤトは道守サクラコの前に立つ。


「最後にだ。俺たちコア魔法士は一人でゴーレムを稼働されるのはこの上なく難しい。不可能と言ってもいい。それはなぜなのか。理由を述べてもらおうか道守サクラコ曹長」


「……理由はコア魔法士一人の魔力では、ゴーレムの巨体を制御する際に力不足であるからです」


「その通りだ。さすがはヘッドコアだな」


 サクラコ視線は真っ直ぐに、淡々と答える。アヤトの物言いは少々人を馬鹿にするような物言いだ。いま三人に出した問いかけも、はっきり言って一般人ですら知っている世の中の常識と呼ばれる内容だ。




「アヤト君。めっちゃ煽ってるね。サイドコアの二人はアヤト君に気圧されて、ただ答えているだけだけど、サクラコちゃんは違う。煽られてる、馬鹿にされているとわかってて答えてる」


「上官には逆らわないか。あの歳で染まり過ぎ(・・・・・)じゃないか」


「サクラコちゃん。アヤト君が嫌いなタイプだね。消耗品である事を受け入れちゃってる感じがする。っとヒロ君お呼びだよ」


 カズハの言葉に顔をアヤトに向けたヒロ。アヤトは顎を動かす。その動作に片手を上げて応えるヒロ。トレーニングルームの真ん中へと歩いていく。


「では待たせたな。常盤軍曹、富士中尉と組手を行え。怪我をしない程度にはせいぜい足掻く事だな」




「宜しくお願いします富士中尉」


 そう言い構える常盤マサミチ。対してヒロはただ立っているだけ。


「あー、常盤軍曹。いやこれだと二人いるからややこしいな。えーと常盤兄。サイドコアが格闘術の訓練するのってすっげえ無駄じゃないか。って思った事ない?」


「えーと、中尉殿。大変恐縮なのですが、私ではわかりかねます」


「大丈夫大丈夫。さっきも言ったけど大人が見てないところではフランクに行こう。どんな答えでも中佐に告げ口しねぇし。って、それなら先に俺がどう思ってるか言うのが筋だよな悪い悪い、俺はね……」


 そこまで話すとヒロは口をつぐんだ。

 バツが悪いから言えないという感じではなく。言いたいけど勿体ぶっている。そんな感じだった。


「無駄だと思ってた。なんでサイドコアが格闘術の訓練なんかしなきゃいけねぇんだよ。面倒だし、痛いし、疲れるし。それに、俺はヘッドコアじゃないし」


 よっこらせとわざとらしく言葉にして、ヒロはその場にあぐらをかいて座り込み、床をパンパンと叩いて見せる。恐る恐るその場に体育座りをするマサミチ、それをヒロは自身の太ももを叩いて、同じようにあぐらをかけと伝える。


「その、ヒロさん。自分は正直、サイドコアが格闘術の訓練や射撃訓練をするのは無駄だと思ってます。だって俺たちはただのシンクロ要員なんですよ? 固有魔法もないし。ヒロさんは思ってたって仰ってましたが、今はどう思ってるか教えてくれませんか?」


 ヒロさんと呼び方が変わった事にヒロは目を細め、ニヤリと口角を上げる。


「いいねぇ。少しずつわかってきたじゃん。俺はね。サイドコアもアンノウンと戦う以上、格闘術の訓練をする必要があると今は思ってる」


「アンノウンと戦う。ですか。それは我々の役目であるサイドコアとはどう違うですか?」


「うーん。なんて表現すればいいんだろうなぁ。ようは気概を見せるというかさ。俺もいざって時はヘッドコアとして戦えるし、その覚悟が出来ているって証明するって感じかな。俺はヘッドコアに守られているサイドコアじゃなくて。ヘッドコアと一緒にアンノウンに挑むサイドコアになりたい」


「難しいです。自分はまだわからないです」


「俺もなんて言えば伝わるのかわからねぇや。学がないし。でもさ、俺は戦えないから、後ろから応援するって奴よりさ。俺も戦える。だから一緒に戦おうってやつの方が背中預けたくない?」


 そう言い終わるとヒロは足を叩き、小気味のいい音を出して立ち上がる。それに引っ張られるように常盤マサミチも立ち上がる。マサミチの汗はすっかり引いていた。


「長々とくだらない話に付き合ってくれてありがとうな。体冷えちまったな。せっかく身体を温めて準備してたところ悪い」


「いえ、気にしないでください。ヒロさん。俺もヘッドコアが背中を預けたくなるサイドコアになりたいです」


 そう言い切る常盤マサミチの顔はアヤトに気圧されていたあの顔とは明らかに違う。明確な意思を持った戦士の顔だ。ヒロは片手を前に出して、指を曲げて合図する。


「よし! そんじゃあ。来いよルーキー」





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