EPノブナガ7『第三アシガル機隊』
その日の第三支部は普段より少々騒がしかった。
第三支部はゴーレムを待機させておくドームを三つ保有している。しかし、いつもは中央棟に隣接する第一ドームのみが稼働している状態だ。
第一ドームより少し離れた場所に設けられている第二ドーム。そこが珍しく展開していたのだ。中にはノブナガとは違う作りのゴーレムが待機している。
待機しているゴーレムは汎用型ゴーレムアシガル。名前が示す通り。さまざまなカスタムを行える日本国軍が最も保有するゴーレムであり、一番ベーシックな機体だ。
このゴーレムを戦闘スタイルに合わせてカスタム。個人の希望に沿う形でチューニングする事で高ティア帯のゴーレム。所謂『ネームドゴーレム』は造られている。
つまり、ティア1ノブナガも、アシガルも元を辿れば同じ規格のゴーレムということだ。
戦果を上げ、ティア3に昇格したヘッドコアは専用機となるゴーレムを与えられる。
この専用機については一人前の証と思っているコア魔法士が多く。コア魔法士達にとっての最初の目標地点となっている。
話を冒頭に戻して、現在第二ドームで待機しているのは元第六支部所属のゴーレム部隊『アシガル機隊』だ。
アシガルの近くではコア魔法士三人が一つのタブレット端末を覗き込み、ああでもない、こうでもないと、何やら作戦を立てているようだった。
「それで、俺たちは今日からあのアシガル機隊のお守りですか」
アヤト達三人は珍しく司令室にいた。司令室から先程の三人をモニタリングしており。その三人を見ながらアヤトは言う。
「まぁ、そう言われると、そうだとしか言えないな。あのアシガル機隊をティア3に昇格させる話が浮上しているのだが、本当にティア3へと昇格させていいのかと、懐疑的な意見があるらしい。というのも、相手にしてきたアンノウンが最底辺のティア5ばかりらしくてな。討伐数だけはあるが、果たしてそれに見合う実力を兼ね備えているのか。と言ったところだろう」
「だが、低ティアとはいえアンノウンはアンノウンだ。生半可な戦闘技術ならばとっくにお陀仏になっていたのは間違いない」
「じゃあ、ある程度の戦闘技術はあるってことだね。高ティア帯のコア魔法士が増えるの事は嬉しいけど、評価基準を甘くして量産しても意味はないから本当に上げても大丈夫って安心する実績が欲しいってところなのかな?」
「大本営の目論見としてはカズハの言った通りだろう。とりあえずこれから暫く『第三アシガル機隊』として第三支部預かりで経験を積ませる事になったからお前達も宜しく頼む。基本的にティア4まではあの部隊にやらせる。ティア3のゴーレムが出現した場合はお前達も緊急出動してもらうが、戦うのはあのアシガルの三人だ」
「元サイドコアのヘッドコアに、教育課程を終了してすぐの双子のサイドコア。はっきり言って随分と歪な三人組だな」
「確かに。ヘッドコアの子って元々ユキムラのサイドコアだったんだ」
顔合わせをするようにとカズキに行くように指示されたのはブリーフィングルーム。顔合わせの時刻より先についていたアヤト達はカズキから渡された三人の資料を見ていた。
ヘッドコア。道守サクラコ。年齢は十七。固有魔法は『デコイ生成』。自身の戦闘技術もさることながら、固有魔法が戦闘に有効と判断され、ヘッドコア適正は優良との判定を受けて教育課程を終了する。
だが教育課程時に組んでいたサイドコア二人がそのまま道守サクラコのサイドコアとなる事を辞退。辞退理由は不明。
魔力量と魔力制御技術も申し分ない為、サイドコアにコンバート。三ヶ月ゴーレムユキムラのサイドコアを務める。
その後、本人の希望により再度ヘッドコアにコンバート。教育課程を再履修をし、そこで現在のサイドコア二人と組み現在に至る。
「サイドコアの二人は一歳歳下の男女の双子か。身内同士のシンクロ率は確かに高いが、その反面、身内間に他人という異物が入ると三人のシンクロ率は著しく低くなる。データを見る限り、稼働に問題はない数値だな。よくシンクロしている」
アヤトの言うように、サイドコアの常盤マサミチ。常盤アカネは兄と妹の双子だ。二人ともサイドコア適性は高く。教育課程時代の素行も良いとの報告書に書かれている。
「なぁ、アヤト。こいつら俺たちがいなくてもティア3ぐらい問題ないんじゃないか? 俺たち本当に必要か?」
「じゃあヒロ君はお兄ちゃんにそう言ってきたら? 怒られるのはヒロ君だけね。私とアヤト君は真面目に二人だけで任務を遂行するから」
「ねぇ、カズハさん。最近俺に辛辣じゃない? え、もしかしてさ、この前のあの蜘蛛やろう倒した後のいい雰囲気をぶち壊したのまだ怒ってるの? だってしょうがないじゃん。確かにいい雰囲気だったかもしれないけど、俺だって三途の川の奪衣婆といい雰囲気になるところだったんだぜ?」
こめかみを揉み解すアヤト。最近のカズハとヒロは事あるごとに衝突する。三人の直属にあたる上司は三波カズキだが、サイドコアをまとめて高いシンクロを維持するのはヘッドコアの務めだ。その為カズハとヒロより高い大尉という肩書きを持っている。
いいかげんにしろ。と言おうとした時、扉を叩く音が聞こえる。
「失礼します。第三アシガル機隊ヘッドコア。道守サクラコ曹長であります。入室よろしいでしょうか?」
「第三アシガル機隊に転属を命ぜられ、本日着任いたしました。ヘッドコアの道守サクラコ曹長であります」
「同じく。常盤マサミチ軍曹であります」
「同じく。常盤アカネ軍曹であります」
ヘッドコアを真ん中に二組が向かい合って敬礼をしている。
「小鳥遊大尉だ。中佐殿から話は聞いているな。お前達第三アシガル機隊の教育を担当する」
「富士中尉だ。指導自体は厳しくさせて貰うが、それ以外は別だ。歳も近いだろうし、大人が見てない時は仲良くやろう」
「三波中尉です。あんまり偉そうなこと言えないし、教えられることも少ないかもしれないけど、なんでも聞いてね」
アヤトは敬礼を解くように指示する。気をつけの体制をとっている道守達だが、緊張しているのか体がカチカチに強張っていた。
目の前の三人は日本最強のゴーレムノブナガを駆る三人だ。緊張するなと言う方が無理だった。
特にヘッドコアの小鳥遊アヤト。同じ年頃の人間とは思えないほどに大人びており、その雰囲気が道守達に恐れを抱かせる。
「あー、さっきも言ったけどさ、大人達が見てない時はゆるくいこうよ。いきなりは難しいかもしれないけど、俺もアヤトもカズハもそんな偉そうにするつもりないしさ」
「いえ、そういう訳にはまいりません。これからご指導を賜る身分であるのに、不躾な態度は取れません」
そう素早く答える道守サクラコ。堅物。第一印象だけで彼女を評価するならその言葉に尽きる。
組織である以上、必要以上に馴れ馴れしいのは頂けないが、コミュニケーションが円滑に取れないのはそれはそれで問題だ。
「道守曹長の言い分は理解した。従順なのは大変結構だが、自ら考える事を放棄するのは無能な人間だ。前者なのか後者なのか。それをまずは判断する。このあと一三:〇〇時にトレーニングルームに来い」
そう言うとアヤトはさっさと部屋を出てしまう。後を追うカズハとヒロ。時刻はもうすぐ十二時だ。
「揉んでやるのか?」
「あぁ。お前達もサイドコアの二人とやれ。戦う理由や信念なんてどうでもいい。コア魔法士になるという事がわかっているのか。俺はそれが知りたい」
「そっか。じゃあ私はお昼軽めにしとかないと」
「また吐くからな」
無言でヒロの脛を蹴りつけるカズハ。軍靴は動きやすいがつま先は硬くなっている。一度ならず何度も蹴りつける。
「頼むからあの三人の前ではそういうことは自重してくれ」
胃が重い。アヤトはカズハとは別の意味で食事は軽めにしようと決意する。




