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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ5『迫る時間と近づく死』

 残された時刻は五分。その時間内にアンノウンを討伐して、正規の手順でゴーレムを停止させなければカズハの命が危ない。

 そしてカズハの生命活動が完全に途絶えたら。核爆発が起きてしまう。

 

「実質、残りは三分もないか……」


 熟練のオペレーターが集う第三支部でも正規の手順によりゴーレム停止は二分はかかる。最後の手段として強制停止が残されているが、アヤトの選択肢に強制停止はなかった。


 対峙したアンノウンに対して、アヤト達ノブナガは攻めあぐねていた。なんとか抜刀することは出来たものの、そこかしこに張り巡らされた糸は踏み込みの邪魔をする。

 刀は振り下ろすだけでは十分な破壊力は生み出せない。体重を乗せて踏み込む、それに合わせて刀を振り下ろす。この一連の連携動作により破壊力は生まれる。


 ましてや、あたりは砂浜だ。仮に踏み込みが出来たとしても本来の力よりは落ちるだろう。

 

 アンノウンはノブナガが攻めあぐねているのを理解しているのか、まるであざ笑うかのようにケタケタと鳴き声を出す。

 こうしている間にも時間は過ぎて行く。

 アヤトは糸が張っていない箇所を見定め。そこを足場にして切り込む。不安定な足場から放たれた一撃とは思えない鋭い一閃がアンノウンを襲うが、アンノウンは糸の上に飛び乗り、糸から糸へ軽業師のように身軽に避ける。

 跳躍中、アンノウンは口から白い塊を飛ばす。そんなあからさまな攻撃にノブナガが当たる訳はない。刀で斬り払う。

 アンノウンより放たれた白い塊は糸と同じく粘着質な性質を持ち、比叡斬を覆うように張り付く。これでは比叡斬は斬るという役目を奪われてしまう。


「舐めるなよ。虫けらが」


 すぐさま炎を比叡斬に纏う。その炎の塊は焼け落ちるが、アンノウンはそれならば数でゴリ押すと言わんばかりに白い塊を何発も放つ。


 塊を焼き斬り、隙を見て攻撃。アンノウンはそれを糸から糸へ飛び移り避け、塊を撃ち出す。その攻防が続く。


「アヤト! このままぴょんぴょんと避けられたら悪戯に時間を消費するだけだ。もう時間がない俺は大丈夫だから、お前の最大出力の魔法で一気に潰そう!」


「無理だ! お前はまだしも、こんな状況のカズハが俺の魔力に耐えられない! ただでさえ今のカズハは魔力が乱れているのをお前だって感じるだろ!」


 小鳥遊アヤトがティア1ゴーレムノブナガのヘッドコアたる理由。それは卓越した戦闘技術よりも他の追随を許さない圧倒的な魔力量と超攻撃的な固有魔法の性質を評価されてのものだ。

 その強大な魔力によって放たれる火炎魔法の威力もまた強大。たとえ荒天の中だろうがこの不利な状況を覆す可能性は大いにある。


 だが、アヤトの最大出力はシンクロしているヒロやカズハに対して頭痛や一時的な意識障害。果ては記憶障害が発生するなどダメージを与える諸刃の剣だ。

 しかも、今のカズハは腹部へのダメージと、擬似髄液による酸素供給で普段より著しく魔力が乱れている。

 こんな状態でアヤトが最大出力で魔力を解き放ったらカズハがどれだけの損傷を負うのか。アヤトはそのリスクを恐れていた。

 

「わたしの、ことは、気にしないで。こいつを、倒さないと」


 弱々しいカズハの声。残り時間は少ない。カズハが耐えられるかわからない。しかし、ただこのまま待ってもいても近づいて来るものは死のみ。アヤトは決断をした。


「司令室。『獄炎』を放つ。すぐにサルベージできるように出来るだけ近くに陸上ユニットを待機させておいて欲しい」




 ノブナガは胸の中心で手と手を合わせる。その姿は仏に縋る教徒のようだ。合わせた手と手を徐々に離していくとその間に発生している黒い球体が徐々に大きくなって行く。

 あたりの温度が急激に上がるのをアンノウンは感じていた。かなり離れた場所で待機している陸上ユニットもその額に汗を浮かべていた。


「アヤトのやつ。獄炎を放つ気だ」


「隊長。その獄炎ってこっちまで被害こないっすよね」


 陸上ユニットを指揮する中年の軍人に、まだ群服が汚れていない新人が質問をする。

 どう見ても視線の先のノブナガが繰り出そうとしている一撃は、人智のそれで推し量れる一撃ではない。

 初めてこの光景を目の当たりにしている新人軍人は足の震えが止まらない。その背中を少し強めに中年の軍人が叩く。


「大丈夫だ。だからしっかりと見るんだ。そして逃げるな。お前が飛び込んだ世界はこういう現実がこれからも待っている世界だ。あいつら三人は俺達よりも何倍もの恐怖と戦っているんだ。俺たち大人が芋引いてどうする」




 この一撃は危険だ。そう反応が判断したアンノウンはどうにかして中断させようと攻撃を仕掛けるが、ノブナガの周囲があまりにも高温でもはや近づくことは叶わない。ダメ元で飛ばした糸の塊もノブナガに届く前に即座に燃え尽きる。

 最早打つ手なし。アンノウンはそう感じたのだろうか、海に向かい飛び込み、最後の手段として逃走を図る。

 火球はノブナガの頭部くらいの大きさになっていた。


「逃がすかよ……。この蜘蛛やろうが!」


 ノブナガは逃げた海中のアンノウン目掛けて火球を投げる。水に触れた瞬間、あたりに爆発音と表現することすら生ぬるい轟音が響く。衝撃波が一気に駆け巡る。海岸線沿いの木々は吹き飛び、市街地へと向かう道路沿いの電柱は薙ぎ倒される。

 海の水は弾け飛び海底に大きな穴があく。穴に海水が流れ込む頃には周囲には雨が大地にぶつかる音だけが聞こえていた。


『アンノウンの生体反応が消失。繰り返します。アンノウンの生体反応が消失しました!』


『停止シークエンス実行中。終了次第、陸上ユニットはコア魔法士三名のサルベージを開始してください!』


 ノブナガとの視界リンクシステムが段々とブラックアウトしていく。早くカズハを助けなければ。アヤトはそう思いながら自身の意識が遠ざかって行くのを感じた。




 ハッ。と目を覚ますアヤト。視界に映る手足と感じる五感は確かに自分のもの。体の感覚がしっかりと戻ったということは正常にノブナガが停止したということだ。

 急いで擬似髄液水槽の上部の蓋を開けて脱け出す。カズハを見ると、体へと意識が戻っているが朦朧としているようで、自力で脱出するのは不可能だ。緊急用で備え付けられているハンマーでカズハの水槽を叩き割り、流れ出る擬似髄液掻き分け、カズハを抱き抱える。


「カズハ。生きてるか?」


「うん、生きてるよ。何とかだけど」


 アヤトにギュッと抱きつくカズハ。その体は震えていた。この震えは寒さからから震えではないだろう。


「少し怖かった。久しぶりに死んじゃうのかなって思っちゃった」


 カズハを優しく抱きしめる。


「お前は死なない。俺はどんな相手だろうが勝つから。カッコ良くは勝てないかもしれないが、無様に負けるつもりも毛頭ない。だから、大丈夫だカズハ」


「アヤト君。うん。信じてるよ。だってアヤト君は強いものね」


 さらに密着するカズハ。アヤトの胸に顔を埋める。


「えへへ。アヤト君ってすごくあったかいよね。このままもう少しぎゅーってして欲しいな」


「あぁ、それくらいお安い御用だ……。ってヒロぉ!」


 ふと視線を上げた先にある富士ヒロの水槽。そこには内側から水槽を叩いてSOSを送る若干血走った目をしているヒロの姿があった。水槽上部の蓋が故障して開けられなかったのだろうか。急いでアヤトが水槽を叩き割ると。髄液を吐き出しながらヒロがふらふらと這って出てくる。


「ヒロ、すまん。その生きてるか?」

 

「当然。余裕で生きてるわ。お前らがイチャイチャしてないで、もう少し早く叩き割ってくれていたらもっと元気な姿をお前らにお届けできたけどな」


「ごめん。ヒロ君。アヤト君の温もりが気持ちよくて。もう他のこと、例えばヒロ君の事一ミリも考えていなかったよ」


「肉体のダメージに追加して精神的なダメージまで与えないでよ! こっちは割と死にかけていたんだぞ!」


 膝をついて停止しているゴーレムの足元に急行した陸上ユニット。見上げると頭部パーツのあたりから何やら人の声が聞こえる。非常事態。という騒ぎ方ではなさそうだ。


「どうやら、三人とも無事なようだな。各員、アンノウンの糸に注意しろ。融解までまだ時間がある、触れるなよ。司令室。こちら陸上ユニット。三人とも無事なようです。天気が回復したため、航空機によるサルベージを要請します」


 雨はいつの間にか上がっていた。


 





 

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