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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ4『雨中の蜘蛛』

 窓の外は強い雨が降っている。もう間も無く梅雨だと今朝のテレビの天気予報コーナーで言っていた。

 時刻はもう間も無く一〇時半を過ぎる。アヤト達三人は三波によりブリーフィングルームに集められていた。


「本日一〇:〇〇時過ぎ、浜松遠州灘付近にてアンノウンが出現した。軍のアンノウン用忌避煙弾(ジャマースモーク)による攻撃で海中へと逃げ込み、現在に至るまで再出現していないとの報告が入っている。忌避煙弾程度で怯むアンノウンだ、推定ティアはティア5。当該アンノウンの固有能力が今のところ不明だが、発覚した所でティアはせいぜい4だろうという判断が下されている。大本営からは内陸部までの侵攻を阻止し、可及的速やかにアンノウンを討伐せよと命令が届いている」


「浅はかだな。この視界の悪い天候の中で戦うのか。しかもゴーレムでは戦いにくい水場でだ。ティア5だろうが4だろうがこのまま出撃したら苦戦は必至。なぜいつもみたいにジャマー戦術で内陸部まで引きつけないですか?」


 生身の人間ですら足元が水場だと動きが鈍くなる。ゴーレムはその上、巨体に比例するように非常に重い。

 水も問題だが、海岸線の場合は柔らかい砂浜も問題点だ。その為、海岸線で出現したアンノウンは内陸部に引きつけてから戦闘をするのが定石となっている。


「アヤトの言うことは最もだ。俺も上に具申したのだが、どうやらアンノウンが出現した場所から内陸部に少し進んだ地域に新しい中間補給地点を建設する予定らしい。もうすでに工事が始まっている手間、そこを荒らされるのは何としても避けたいという返事が返ってきた」


「それでいつもの戦術はNGなのか。確かにこの荒天の中で戦いにくい地形となると、他のゴーレムじゃちょっと荷が重いか」


「俺たちでも十分に重い」


 ヒロの発言に対して間髪入れず返事をするアヤト。

 本来であればティア5、4相当であれば、ノブナガは過剰戦力。仮にアンノウンがティア4以上だったとしても、安全策としてゴーレムアシガルをニ機以上送り込めば最悪の事態だけは避けられるだろう。

 ただし、これは通常の戦術に則って行動した場合の話だ。


 今回はイレギュラーにイレギュラーが重なっている。わざわざノブナガに発令したと言うことは、どうやら大本営も無謀な命令を出している自覚があるらしい。


「とにかく出撃しないとダメなんだよねお兄ちゃん。でも結局どうやって戦うの?」


「あまり俺は得意な戦術ではないが、ライフルで距離をとって戦おうと思う。嘆いて雨が止むわけではないしな。少しでも勝率をあげる努力をしないと」




「こちらノブナガ。視界が非常に悪い。海も荒れているためノブナガから目視による索敵は困難と思われる」


 アヤトはゴーレム越しに海の方を注視していた。しかし茶色に濁った海は、同じく暗い色合いのアンノウンは上手く隠れてしまうだろう。


 愛刀の比叡斬は背負い、両手でライフルを持っている。叩きつけるような雨の中、ノブナガはゆっくりと進軍していた。


『アリサカライフル』と呼ばれるこのゴーレム用のライフルは装弾数こそ少ないが、高い威力とクセが少なく使い手を選ばないという理由から多くのゴーレム部隊に配備されている。


『ノブナガ。こちら司令室の三波だ。もう間も無く出現ポイントに到着する、戦闘が開始したらその位置より内陸部に行かせないようにしろ。ここを防衛ラインとして殲滅するんだ』


 ノブナガはアリサカライフルを構えて海と向かい合うように立つ。左から右へとゆっくり視線を動かすが以前荒れた海しか視界に映らない。


「こちらノブナガ。棒立ちは避けたいため、少し移動しようと思う。上陸の可能性が高いポイントへ誘導を求む」


『了解です。別の予測上陸ポイントへと誘導します。このまま浜名湖の方へと進んでください』


 女性オペレーターの指示に従い、ノブナガは再び歩き始めようとする。脚をあげようとした時。足元が何かに引っ掛かり躓いてしまう。


『なんだ、これは。紐か?』


 砂浜から白い紐が飛び出し、片方は海へと伸びている。


 アヤト達は警戒を強める。どう考えても先程はこの紐は見当たらなかった、つまりこれは隠されていた。この紐を生成するのがアンノウンの固有能力だと仮定して、それを用いてトラップを仕掛ける知性。


「敵はティア4どころじゃないぞ……」


 司令室でそう呟く三波の背中を嫌な汗が流れる。


 ――その時だった。


「海中にアンノウン反応! アンノウン反応です! ものすごい速度でノブナガに向かっています!」




 オペレーターの声にアヤトは即座に海に視線を向けた。まるで高速で巡航する船のように海を掻き分けて近づくものがはっきりと確認できる。だがこの荒天の中、はっきりわかると言うことはそれだけ近づいていると言うことだ。

 ノブナガ立ち上がり回避行動を取ろうとする、しかし。


「この紐、離れない!」


 紐は強力な粘着性を持ち、少し触った程度のはずが足首から剥がれない。そこへアンノウンは勢いよく水から飛び出て、勢いをそのままノブナガを蹴り飛ばす。

 すぐさまノブナガは立ち上がり、背負う比叡斬を抜刀しようとするが、アンノウンはそれを抜かせまいと追撃をかける。


 アンノウンの放つ拳打を逸らすように受け流す。だがノブナガ一歩後ろに下がろうとした時、ノブナガの足首に先程とは別の紐が引っ掛かる。そのまま後ろに倒れ込むノブナガ。その隙をアンノウンは見逃さず仰向けに倒れているノブナガのガラ空きの腹部目掛けて脚を落とす。

 気を失いそうな痛みと熱がアヤト達三人の腹部を駆け巡る。

 その痛みに耐えきれずカズハは酸素マスクの中に吐瀉物を撒き散らす。


「三波カズハの酸素マスクが異物により塞がれています!」


『い、いや、苦しい。呼吸が、できない』


 アヤトとシンクロしているため、カズハは意識はあるが自分の体を動かす事が出来ない。その為、吐いたものを飲み込むということが出来ず酸素マスクに吐瀉物が詰まっていた

 

「三波カズハの酸素マスクによる酸素供給を停止! 擬似髄液による酸素供給に切り替え!」


 カズキの判断は早かった。


 胎児が臍帯血管の血液から酸素と栄養を受け取るように、擬似髄液を直接肺に流し込むことによって酸素を供給させる事ができる。

 この方法が可能なら、なぜ最初から事故の可能性がある酸素マスクを使うのか。理由は単純。擬似髄液による供給はおよそ五分間しか保つ事が出来ないからだ。そのため擬似髄液では五分を過ぎたら溺死をしてしまう。


「アヤト。カズハの酸素供給を擬似髄液に切り替えた。今から五分でケリをつけろ!」




 再び落とされたアンノウンの蹴りをその場から横に転がるように回避する。

 起き上がってみると周囲の異常に気づいた。足元には地を這うように何本もの紐が張り巡っていた。見覚えのあるその光景。これは紐ではなく糸だ。アヤトは苦々しく呟く。


「まるで蜘蛛の巣だな。どうやら、誘い込まれたのは俺たちだったか……」


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