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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ2『炎のサムライ』

「移動しながら聞け、アンノウンが出現したのは長野県の諏訪市。山梨との県境にて第四支部のティア4ゴーレムアシガルが戦闘を開始。アシガルは敗戦し、サイドコアが一人KIA。アンノウンは現在韮崎市に展開された防衛線で迎え撃っている。防衛線維持率は残り七〇パーセント。突破されるのも時間の問題だろう。近隣民間人の避難は完了済みだ。真正面からアンノウンと戦うことになる事を覚悟しておくように」


 ゴーレムの中でアヤト達はカズキからの作戦概要を説明されていた。


「観測班からの報告だと、アンノウンはティア3だそうだ。警戒すべき特異能力は無しとの事だが、ティア4とはいえゴーレムが敗れた以上、基礎的な戦闘力は比較的高い事が予想される。以上、何か質問は?」


『三波中佐、第四支部のゴーレムユキムラはどうしたんですか?』


 ユキムラとは長野北部に展開する第四支部所属のティア2ゴーレムだ。


 アンノウンのティア以上か、それと同等のティア認定されているゴーレムで迎え撃つのが通常の戦術なのだが、今回、第四支部はティア3相当のアンノウンに対してティア4の汎用型ゴーレムアシガルで迎撃している。これに疑問に抱いたアヤトがカズキへと問う。


「ユキムラは富山の日本海近くで出現したアンノウンを迎撃したばかりで帰投中だったんだ。今回出現したアンノウンは諏訪の市街地へ向けて一直線に侵攻していたため間に合わなかったんだろう。大方、ユキムラが到着するまでの足止めになればいいと思ってアシガルを出撃させたんだろうな」


『まぁ、その結果、戦死者を出したがな』とカズキは誰に向かって言った訳でもないが、誰かに悪態をつくような、棘のあるニュアンスで言う。その顔は苦い虫を噛み潰したような顔をしていた。

 ゴーレム内のため、直接確認はできないが、カズキがあまりいい表情をしていない事をアヤト達は容易に想像できた。


 今回戦死したコア魔法士はまだ軍が設置しているコア魔法士の育成学校を終了したばかりの齢十五の少年だった。

 未成年の戦死という目を背けたくなるような事実を見せつけてくる今の国軍の在り方は、世論から子供達におんぶに抱っこと揶揄される。

 世界的に見てもコア魔法士の多くは二十歳前後で、子供と大人の境にいる者達ばかりだ、日本国では下は十四歳から上は二十六歳までのコア魔法士がゴーレムコア魔法士として任務についている。


『運がなかった。といえばそれまでだが、コア魔法士になる以上、ゴーレムの中で死ぬ覚悟はしていただろう』


 アヤトのスピーカーから溢れるような言葉が司令室を沈黙させる。その言葉を受けて、中には目を赤くさせ、鼻をすする情に厚いオペレーターもいた。

 

 日本は国軍がまだ自衛隊と呼ばれていた頃から、徴兵ではなく希望者が集う形式で組織を作っていた。そしてそれは今も変わらない。

 得体の知れない化け物と戦うことが約束されているこの時勢に集まってくる人間達は、各々が立ち向かう理由と曲げられない信念をもっている。

 そして全員に共通して言えるのは『死と対峙する子供達と機器と向かい合う大人達』という構図に対して強い嫌悪感を抱いている事だ。

 特に最前線でゴーレム部隊を補佐する部隊はそんな思考の人間の集まりだ。だがそんな思考はナンセンスだと言う事を皆理解している。

 核でやっと倒せる可能性が発生するアンノウンを大人の操る兵器では倒せる可能性はない。頭で理解していても、心では理解できないのだ。


 俺達が特攻する事でアンノウンに隙が出来るなら。


 ゴーレムが負けた時、俺達が人柱になる事でゴーレムからコア魔法士をサルベージする時間が一秒でも出来るなら。


 ――そのためなら俺達は喜んで死んでやるさ


 この言葉は第三支部所属の陸上戦術ユニットに所属する面々がよく口にする言葉だ。


「あぁ、そうだな。だからこそ、俺たちがアンノウンを必ず討伐するんだ」


 仇を討つぞ。その言葉で、暗く重い空気が蔓延していた司令室は再び研ぎ澄まされた空気に変わる。皆一様に鋭い目つきで自身の担当するディスプレイを注視していた。




「アンノウンに韮崎防衛線を突破されました! 釜無川沿いを甲府盆地方面へ進んでいます。ノブナガとの推定距離は五〇キロです」


 女性オペレーターが叫ぶように報告する。司令室全体が一層張り詰めた空気になる。それはアヤト達も同じだった。

 韮崎市の防衛線は急に管轄が更新された為、第三支部が急遽展開した防衛線だ。通常時に比べて強度は脆い。

 ここにきて新たに防衛線を張る戦力も時間も皆無。アヤト達ゴーレムノブナガで迎撃し撃滅するしかない。

 

 ノブナガは走る速度を速めた。




 富士五湖を駆け抜けて、ノブナガはもう間も無く南アルプス市に到着する。甲府盆地の呼ばれるこの地域は山々に囲まれた平坦な地形の為、多少の距離があろうと敵の姿を確認しやすい。だがそれはアンノウンにとっても同じ。


「ノブナガ正面よりやや十一時の方向。敵アンノウンを確認しました。距離およそ二キロです」


『こちらノブナガ、敵を視認した。これより戦闘を開始する』


 アヤトの言葉を皮切りにノブナガは腰に携帯していた一振りの刀を抜刀する。

 鋭利とも鈍重とも受け取れる印象を見る物に与える濁った黒色の刀は、ヒヒイロカネによって打ち出されたアヤトとノブナガ専用の武器であり銘は『比叡斬』アヤトの固有魔法『火炎』と合わさった一振りは圧倒的な破壊力を持ち、アヤト自身の近接戦闘のスキルもあり、多くのアンノウンを斬り伏せてきた。


 ゆっくりと歩みを進めていたアンノウンもノブナガを確認する。そしておよそこの世の生物とは思えない異形な鳴き声を一つ上げ、ノブナガに向かって走り出す。互いに走る両者の距離はどんどんと縮まる。


 先に仕掛けたのはアンノウンだった。ノブナガの間合いの外から。腕をゴムのように伸ばし、まるで鞭のようにしなやかにしならせて、大きく外から薙ぐように攻撃する。

 巨大な腕と遠心力を用いた破壊力の高い一撃は、暴風のように轟いた音を纏いノブナガに襲いかかる。

 ノブナガはその一撃を倒れ込むように回避しつつ、そのまま体が倒れる動きを利用して一足飛びに懐へと踏み込む。

 生身の身体でもそう簡単に出来る芸当ではないこの踏み込みを、アヤトはノブナガでいとも簡単に再現してしまう。アンノウンの懐中。アンノウンの腰から肩に向かって斬りあげる。


 アンノウンの一撃とは対照的に、ノブナガが繰り出した一振りは僅かばかりの風切り音のみ生み出した。鋭く研ぎ澄まされた刃はアンノウンの身体を確かに斬りつけた。

 

 肉を裂く刀に露のように薄い紫の鮮血が滑る。切先から空中に紫色の鮮血が飛ぶ。だが人体と酷似した姿の怪物は斬りつけられる瞬間、大きく後ろに飛んで致命傷を避けた。斬られた箇所は範囲は大きいが深くはない。ノブナガも構え直し、次の攻撃に備える。


「やるな。ギリギリで後ろに飛んで致命傷を避けやがった」


「アヤト君。感心してる場合じゃないよ。ほら油断しないで」


 緊迫した雰囲気をまるで感じない、ボソボソとした声でアンノウンに対して称賛を送るアヤト。カズハに促されアヤトは再び刀を中段に構える。余裕があるように見るが、これは殺すか殺されるかの戦場だ。


 再び両者の間に距離が生まれる。ノブナガは中段に構え、再びカウンターを狙う。アンノウンも先程のノブナガの攻撃を警戒してか、ボクサーが防御を取るようなポーズをし、攻撃を繰り出さずじっくりと警戒している。


 両者が相手の出方を伺う。そんな膠着状態を絶ったのはノブナガだった。


 構えを上段に直し、巨大な鉄の人形は素早く踏み込む。アンノウンの頭部からその先までの一閃を狙った鋭い太刀筋は今度は視覚情報だけで火傷しそうなほど強大な焔を纏う。


 獅子が雄叫びをあげるかのような爆音を辺りに響かせながら振り下ろされた一閃に対して、アンノウンは恐怖を感じたのか、これでもかと思うほど大きく飛び退き距離を取る。


 刀の間合いから大きく外れた位置のアンノウンを襲うのは空を切った刀ではなく、それが纏っていた炎だった。


 刀が描いた軌道をなぞるような三日月のような炎は鋭利な刃物となってアンノウンへ向かって一直線に飛ぶ。


「比叡斬。焼き討ち」


 誰に向かって言ったかわからない。その程度の小さな声で技名を呟くアヤト。炎の飛刃はアンノウンを右半身と左半身に切り裂く。


 堰を切ったように溢れ出す鮮血を猛々しく燃え盛る炎が蒸発させる。あたりを肉の焼けるような匂いがたち込める。左右それぞれの身体は大地は崩れ落ち。近場の樹木を巻き込んで更に燃え上がる。


 キン。と納刀する心地よい音が響いた瞬間。まるで何事も無かったかのように辺りの炎は消し飛んだ。残ったのは焦げて鼻の曲がるような匂いを纏う巨大な焼死体と炭になりかかっている木々。




「アンノウン沈黙。生体反応は完全にロストしました。融解までの予想時間は一分です」


 アンノウンをモニタリングしていたオペレーターがそう言った直後。張り詰めていた空気は一気に霧散する。あるものは大きく大きく息を吐き出し。またあるものは明日の背もたれにもたれかかり天井に向かって身体を伸ばす。三波もこめかみを二度三度揉み。一回深呼吸をする。


「状況終了。研究班はアンノウンの肉体が溶けてなくなる前にサンプル回収急げ」


 再び意識を戦場へ向けた三波の言葉でオペレーター達も各自の業務に取り掛かる。あるものは整備班の作業準備命令を基地へアナウンスし、またあるものは戦場になった各地への救護班の出動を指示していた。


「ご苦労だったなアヤト、ヒロ、カズハ」


 三波は先程までの針のような声色とは違い、優しく暖かい声でアヤト達三人に話しかける。


『帰ったら報告書を書かないとな。アヤト今日こそは早々に仕上げてくれよ。毎度日付変わるまで俺がお前に付き合うのはごめん被る』


 三波の声色の変化を受け、ヒロは年相応の言葉遣いになり、アヤトに向かって軽口を叩く。アヤト達三人もまた肩の力を抜いてリラックスしていた。


『いやぁ、今日も勝利勝利だよ。これがティア1ゴーレムノブナガの実力ってやつかな。凄いでしょお兄ちゃん』


 カズハが調子良く言ったその言葉を聞き。アヤトがさてと前置いて話す。


『ノブナガ、これより帰投する』


 ノブナガは基地の方へとゆっくりと歩きだす。


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