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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ20『暴君カズハ』

 水着姿のカズハとサクラコが肩で息をしながら対峙している。二人の額には汗が浮かび、汗は美しい白い肌を下へと流れる。


 二人のそばで倒れているのはアヤトとヒロ。そしてマサミチの三人。彼らも同じく水着姿だ。


「あの二人も懲りないわね……」


 少し離れた所に設置されたビーチチェアに座り、ズズーと音を立ててジュースを飲むアカネ。


 辺りは一面の白い砂浜。しかし寄せて返す波はなく、ただ大きな水溜りのようだ。周りを囲むのは山々と見慣れた第三支部の建物群。


 ここは基地の中に作られた人口の砂浜。


 事の発端はカズハの発した一言。


 ――せっかくだから、みんなで海に遊びに行きたい。




「みんなで、海に行こうよ!!」


 毎度三人がその日一番に揃う朝食時。

 おはようの挨拶もほどほどに キラキラと目を輝かせて、テーブルから身を乗りだしながらそういうのはカズハ。


 シュミレーター訓練を経て、カズハは更にアシガルの面々と積極的に交流をするようになっていた。

 少し前までは基地内には同じ年頃の人間はアヤトとヒロのみだった。しかしそこへアシガルの面々が加わり、しかもうち二人は同性だ。


 元来、人懐っこい性格のカズハはまるで学校に転校生が来たかのように誰の目から見ても毎日が楽しそうだった。


 とはいえ、六人とも肩書きは軍人であり、有事に備えるのが常。六人全員が揃って外出など出来るはずもない。


「いやあ。俺達全員で海は難しいだろ。そうだ、それならいつぞやの時みたいに屋上でBBQとか花火でもするか?」


 だが真っ向からカズハの意見を否定すると後々が面倒くさい事をアヤトとヒロは知っている。そのため代案を提示しつつやんわりと無理だよと伝えるヒロ。


「ヒロ君。つまらないのはその生き様だけにしてよ。せっかく若者が六人もいるのにそれだけとか。ありえないよ」


 だがそんな大人な対応をしたヒロを一刀両断するカズハ。どうやらヒロの代案ではご不満らしい。


「……まぁ、ヒロの生き様はさておき、どう考えても俺たち六人が揃って外出許可が降りるわけないだろう。常にどちらかのチームが緊急出撃に備えて待機しておかなければ」


「それはそうだけど、でも海でみんなで遊びたいよ! サクラコちゃん達ともっと遊びたい」


 嫌だ嫌だとステレオタイプの駄々のこねかたをするカズハにアヤトは後で本日一錠目の胃薬を飲もうと決意する。

 とりあえずなんとかして落ち着かせなければ。そう思い機嫌を取ろうとするが駄々っ子はそもそも人の話を聞いてくれない。


 いつもなら一緒に取り押さえる担当のヒロは鋭すぎるカズハの口撃により心がやられたのか、死んだ魚のような目になり、俯いたまま先ほどから何やら『生き様』『つまらない』とぶつぶつと呟くばかりで、使い物にならない。


「おはようございます。先輩方。えーと。カズハさんはなにかあったのですか?」


 そこにやってきたのはこの状況を打破する切り札。もといアシガルの面々だ。アヤトはこのカオスな状況を切り開くべく、アシガルの面々に事情を説明する。




「お気持ちはお察しします。ですが富士中尉が仰るように私達六人に対して同時に外出許可が降りる可能性はあり得ません。そもそも私達コア魔法士は常日頃から――」


「んもう、サクラコちゃんまで!」


 長々と、そして淡々と述べるサクラコに対して駄々っ子カズハさんはあーあーと耳を押さえるばかりだ。


 このままではいけない。そう判断したアヤトは上官として、規律を守るために少々心を鬼にし、わがままを言うなと注意しようとする。


 わざとらしく咳払いをして、言葉を紡ごうとした時だった。


「サクラコちゃんはアヤト君に可愛い水着姿を見てもらいたくないの?! 私は可愛い自分をアヤト君に見てもらいたい!!」


 ズキューン。と見えない何かを撃ち抜く音がした。……ような気がした。


 先程まで、くどくどと姑の如くカズハに軍人のなんたるかを説法していたサクラコが急に黙り込む。

 アヤトが恐る恐るサクラコを見ると何か悟ったような、それでいて何かを決意したような顔をしている。


 キリッとした表情のままサクラコはアヤトに向き直る。


「大尉。三波中尉殿(・・・)のおっしゃる通りです。海水浴による交流で更にお互いの絆を深め、戦略的強度の底上げを図るべきかと具申致します」


 それは鮮やかすぎる手のひら返し。


 一体何が要因となったのだろうか。アヤトの理解が追いつかないのは決して寝起きだからという訳ではなさそうだ。

 ここまではっきりと手のひらを返されると逆に清々しくなってくる。


「よーし。それじゃあ早速お兄ちゃんに相談してこよう!!」


 まさに意気揚々。スキップでもしそうなほど軽やかな足取りでサクラコを引き連れカズハは食堂を後にする。呆気に取られるアヤト、マサミチ、アカネ。


「えーと、小鳥遊先輩。これ大丈夫なんすかね?」


「常盤兄。はっきりと言っておく。あとはもう三波中佐の良識にかけるしかないが。中佐はシスコンだ。もう一度言うぞ。中佐はシスコンだ」


「そこまで大尉が念を押すとなると、……もしかしなくても危ないんじゃ」


 常盤アカネが声出してフラグを建ててしまう。その後、基地内の放送で残り四名が三波カズキの元へ呼ばれるまでそう時間を要さなかった。




「それで、結局こうなるのか……」


 呆然と立ち尽くすアヤト。太陽は高い場所から照らし、日の下にいるだけでじんわりと汗をかいてくる。アヤトはグレーの短パン型の水着を着て、その上に薄手のパーカーを羽織っている。

 しかし暑いためか、パーカーの前は開かれており、そこから細く引き締まったシックスパックがチラチラ見えている。


 アヤトの視線の先には。白い砂浜とレジャー施設並みの規模を誇るプール。


 まず最初に結論を述べると、暴君カズハの野望はあっさりと叶ってしまった。


 しかし三波カズキも司令官として所属するコア魔法士全員を外出させるのは無理だと外出は却下。

 そして落とし所としてカズキから提案されたのは基地内に海を再現する事だった。


 元々軍ではコア魔法士に対して保養経費が準備されている。普通の人生を捨て、命をかけて戦うのだから、せめて安らぎのひと時は思うがままに過ごして貰おうという名目だ。

 その経費から、あるコア魔法士は特注のシアタールームを作ったり、またあるコア魔法士は浴場に温泉を引いたりと、割となんでも出来てしまうほどの金額が準備されている。


 アヤト達ノブナガは特に希望がなかったので、経費は手付かずだった。

 だが手付かずの経費とティア1ゆえに、大本営からはなにか他に欲しいものはないのかと、しつこくお伺いを立てられる始末。


 とりあえず、もしかしたら何か要望が出てくるかもと、ちゃっかりお伺いのたびに経費は上乗せしてもらっていた。


 その結果。結構な金額が経費として使える為、もういっそビーチを作ってしまおうということになった。


 カズキ指導の元。カズハを蝶よ花よと崇め奉る基地の馬鹿野郎共の手によって突貫工事がなされ、その結果なんと三日で基地内に白い砂浜のビーチを再現することに成功した。


 カズハ達女子三人は街へと外出する基地内の女性軍人と密にやり取りを行い。女性軍人に各々、自分の希望する水着を買ってきて貰ったようだ。


 アヤト達男連中はどうせ一回きりの行事にわざわざ水着を買う必要はないと判断。

 三人は教育課程の時、水上での離脱訓練時に使用したシンプルなデザインの配給された水着を着用している。


「なんだか、とんでもないことになったな」


 シャクシャクと砂浜を踏む音に振り返ると、ビーチパラソルを抱えてサングラスをかけたヒロが立っていた。アヤトに比べて線は細いがそれでもしっかりとした体つきだ。


「あれ、先輩方と自分の水着デザイン違うんですね。えー、なんかそっちのデザインの方が自分的にカッコいいです」


 いつの間にかマサミチも着替え終わってビーチに来ていた。同じくサングラスをかけて左右の腕にはそれぞれ大人用の浮き輪を抱えている。


「お前ら。なんだかんだで楽しむ気満々じゃないか」


「当たり前だろ。みろよこの金に物を言わせた渾身の作品を。まさにリゾート。まさに天国。楽しまなきゃそれはただのバカだぜ」


 そう言いながらチラリとサングラスをずらしカッコつけながらアヤトを見るヒロ。


「あ、アヤト君達先に来てたんだ!! お待たせ!! 着替え終わったよ!!」

 


 







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