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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ19『纏う陣羽織』

 一機ずつしか攻撃はしてこない。しかしこれが分かったとしても、五機いるアシガルのどの機体が攻撃してくるか、それがわからない。

 ノブナガは攻撃を貰いつつも、本当に危険な一撃はなんとか回避する。


「固有魔法を熟知した上でいい戦術をとってくる。認めよう。あいつら三人は強い」


「そうだな。これはティア3との戦闘は俺達が心配する必要はなさそうだ。というか、今は俺達が危ないか」


 淡々と述べるアヤトに、少々疲労を孕んだ声のヒロが答える。ヒロもカズハもやはりアヤトと比べて元の肉体が打たれ弱い。

 細かな攻撃の蓄積が、サイドコア二人の体力をみるみると奪っていく。


「とりあえず致命傷だけは避けているけどさ。アヤト君。何とか出来そう?」


「無論だ。後輩がこれ程までに素晴らしい戦術を披露してくれたんだ。ここは俺達も少し先輩風を吹かせて貰おうか」


 ノブナガは炎の火力を強め、それを全身に纏う。黒金の甲冑の上から更に焔の陣羽織を羽織る。

 煌々とした紅と黒金のコントラストは見るものを圧倒とさせる。

 それは紛う事なき王者の風格。その姿のノブナガは最早近づくだけで火傷しそうな程だ。


「ノブナガモード『第六天魔王』――さぁ。耐え凌げよ。アシガル!!」




「み、三波中佐! システムが過負荷状態です! このままではシュミレーション構築ソフトがダウンしてしまいます!」


「あの馬鹿……。 負荷がかかるからシュミレーターであのモードになるなと言ったはずなのに。まぁだがアヤトがあの姿にならざるを得ないと判断したほどにアシガルは強いってことか」


「えーと、いかがなさいますか? このままでは強制終了してしまいます。死にまでは至らないですが、強制終了の副作用で丸一日は頭痛で悶えますよ」


 それがどうしたと言わんばかりの表情でカズキはコーヒーを口にする。報告してきたオペレーターに対してコーヒーを差し出すが、受け取ったオペレーターは固まってしまう。

 流れでカップを受け取ってしまったが、オペレーターの欲しいものはコーヒーではなく、この状況に対する指示だ。

 カップに口をつけて、一回啜るカズキ。


「馬鹿どもには頭痛はいい薬だ。だが、過負荷でシステムが壊れたらどうしようもないな。時間制限をつけろ。あと三分でシュミレート訓練を強制停止する。それまで好きにやらせておけ」


「は、はぁ、では。 両機聞こえますか! えーシステムの過負荷によるソフトの強制停止の可能性があるため、残り三分で訓練を中止します! これは三波中佐の指示です! 繰り返します。残り三分で訓練を中止します!」




「……もしかして、俺のせいか?」


「もしかしなくてもアヤト君のせいだよ」


「もしかしなくてもアヤトのせいだ」


 バツが悪そうなアヤトに追い討ちをかける二人。二人から攻められてアヤトは何も言えなくなってしまう。


「まぁ、アヤト君が高価なシュミレーターを壊す前にさっさとかたをつけちゃおうか」


「だなぁ。もしシュミレーターが壊れたとして、破損分を給与から天引きは勘弁だ」


 グサグサとアヤトの心に二人の鋭利な言葉のナイフが突き刺さる。


「……早々に、かたをつける」


 ボソボソと暗いトーンでそういうアヤト。言葉を言い終わるとノブナガは突然アシガルの視界から消えた。




「――!! 後ろ!!」


 叫ぶサクラコ。急いで視線を後ろに向けるが、視線の先には二機のアシガルがそれぞれ頭部をもがれていた。


 頭部を失い、力なく倒れる機体。ノブナガの両掌に抱えられたアシガルの頭部は燃えながら霧散する。


 サクラコ達三人に悪寒と表現するには生温い、震えてしまいそうな程に冷えて、肌を刺す痛い感覚が襲う。


 ありえない。魔力により身体能力が跳ね上がってあるとはいえ、鋼鉄の機体が出していい速度を遥かに超えている。


 目の前で起きたことにサクラコの思考は追いつかない。何が起きた? それはありえない。その堂々巡りだ。


『ふむ。この二機ははずれか……』


 ノブナガの機体に備え付けられた拡声器からアヤトの声が聞こえる。その声は酷く単調で、まるでつまらない世間話をしているようだ。だが今はその声色が恐ろしい。


 再び視界から消えるノブナガ。視線を右往左往させ、攻めてくるノブナガを見つけるが、異常な速度で接近してくる。


 ――これはまずい!!


 そう直感が判断したサクラコはアシガルを操り、ノブナガの方へ囮を繰り出す。発動の瞬間を見られたがそんな事はどうでもいい。たとえ一瞬で蒸発させられるとはいえ、少しくらいは壁になってくれるだろう。


 しかしそんな淡い希望を無慈悲にノブナガは蹂躙していく。


 まるで大人が子供を遇らうように、繰り出された囮をノブナガは腕の一薙で消しとばしていく。

 最後の囮を潰したノブナガは、アシガルの本体へ一気に踏み込む。


『……なるほど、お前が本体だな』


 おかしい。とサクラコは思っていた。目の前に繰り出した囮達は全滅している。そして小鳥遊アヤトの声は真後ろから聞こえる。


 振り向かなければ。振り向いて反撃しなければ。頭では理解しているのに、体が動かない。


 振り向くことを、抗うことを本能が拒絶している。


 首を締め付けられるような感覚。絶望的な状況の中、ひどくクリアになっていたサクラコの思考は、自分達が今何をされているのかすぐに分かった。

 ノブナガの右手がにアシガルの首を締め付けているのだ。

 情けだろうか、右手は炎を宿しておらず、ただ締め付けるのみ。


『チェックメイト。かな? 道守曹長』


 完敗だ。勝てるわけがない。サクラコは深く沈むような感覚に襲われる。

 だが、それとは逆にとても強い好意をアヤトに抱く。その好意はアイドルに対するファンのそれ。憧れに近いものだった。


 ――あぁ、この人のように私も強くなりたい。


 ――この人に認めてもらいたい。


「……完敗です。大尉」


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