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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ1『動き出す巨体』

 作業服を着た男たちが広いドーム内を時折聞こえる怒声の中あちらへ、こちらへと駆け足で作業している。


 ドームの中央にあるのは日本国軍所属ゴーレム。ティア1ゴーレム『ノブナガ』


 遥か昔。安土桃山と呼ばれる時代にいた軍人達が身につけていた甲冑と呼ばれるものをモチーフにデザインされたその全体像は黒く光り。近づくとまるで巨大な鉄塊のような威圧感で周囲を圧倒させる。


 ドームに隣接する中央棟と呼ばれる建物内に、この基地の司令室はあった。

 中央棟の二階と三階。フロアをくり抜いたようにデザインされたこの部屋が司令室だ。

 下のフロアに複数のPCが並び、一つのPCの前に一人の軍人がオペレーターとして待機している。アラート音を発信したのもこの部屋からであり、座るオペレーター達の正面に向かう合うように壁には巨大なモニターディスプレイが設置されていた。


 二階部分の壁際にある階段を上へ登ると、横に長い大きなテーブルがあった。テーブルの中央はタッチパネル式のディスプレイになっている。巨大なモニターがよく見え、下のオペレーター達を見渡せる位置にあるこの場所で司令官が指揮を取る。

 テーブルの真ん中に座る男がいる。男の名は三波カズキ。この第三支部を統括している男だ。


 下のフロアのオペレーター達は慌ただしく各所に指示を出している。飛び交う男女の声で誰が何を言っているのかわからない。


「第四支部のティア4ゴーレムアシガルが戦闘不能。サイドコアの魔法士が一人KIA認定。防衛線区域の変更に伴い本作戦は第三支部管轄に更新されました」


 飛び交う声の全てを上書きするような一際大きな声で男性のオペレーターが言う。上のフロアにいるカズキへと向かって放った言葉だ。

 カズキは立ち上がり、長机のディスプレイを一瞥する。下のフロアにいるオペレーター達に向かって言う。


「韮崎防衛戦の状況は?」


「敵アンノウンはまだ防衛戦へと到達はしていません。現在、北杜市西部を進行中。近隣民間人の避難は完了済み。もう間も無く防衛戦展開完了します。」


 先程の男とは別のオペレーターが答える。


「よし、南アルプス市の辺りを予測戦闘域としノブナガで迎え撃つ。韮崎防衛戦はジャマー戦術を指示。ノブナガの起動を急げ」




「ふんふふーん」


 ドームの一角、ピリピリと肌が引きつるような緊張感があたりに漂う中、その少女は一人ご機嫌で鼻歌を奏でていた。

 癖のないストレートで美しい黒髪のセミロングヘア。そして幼いながら可憐な顔つきの少女だ。華奢な体でちょこんと椅子に座っている。両足をプラプラさせて歌う姿はこの場所には似つかわしくない。


 少女の近くに座り、眼鏡をかけて本を読む少年がいる。

 人当たりがよさそうな、柔らかい雰囲気をまとった優しい顔つきの少年であり、無言で本を読む姿は少女と同様この場の雰囲気にあっていない。


「カズハは今日も緊張していないんだね。これから出撃なのに」


 本を読み進めながら少年は少女に話しかける。カズハと呼ばれた少女は歌うのをやめ、眼鏡の少年の言葉に返事をする。


「そうかな。私はいつも通りだよ。いつも通り三人でアンノウンやっつける。ただそれだけだよ」


「それはそうだけど。僕はいつまで経っても出撃前のこの独特な緊張感には耐えられないよ。本でも読んで気を紛らわさないと」


 少年と少女の会話の温度感(・・・)はまるで学校の休み時間のようだ。しかし、ここは軍の基地で、二人も何かしら自分の役目があるのだろう。二人とも水の中で作業するようなウエットスーツに身を包んでいる。


「ねぇヒロ君。アヤト君遅いね。どこにいるんだろう」


「アヤトの事だから、天気もいいし今日は観測棟の屋上で昼寝でもしてるんじゃないかな」


 眼鏡の少年。ヒロは読んでいた本から目をそらさずに答えた。そんな二人の元へ走って近づいてくる人影が一つ。


「すまん。レーダー棟の屋上で寝ていた。ブリーフィングは?」


 影の正体は先ほど屋上で寝ていた少年だった。その少年も先ほどの二人同様、ウエットスーツを着ている。


「アヤト遅かったな。いやまだ待機命令から更新されていない」


 ヒロは息を少しだけ乱している少年。アヤトに向かって答える。まるで三人が揃ったのを見計らったかのように拡声器から男の声が聞こえてきた。


『コア魔法士三名は至急搭乗せよ。繰り返す。コア魔法士三名は至急搭乗せよ』


「ブリーフィングやらないのかな?」


「それだけ今回は修羅場なんだろう。まずは急いでダイブするぞ」


 眉尻を少しだけ下げ、不安気なカズハに、真剣な表情をしたアヤトが答える。




 ゴーレムノブナガはまるで狩りを始める前の獣のように低く唸っている。時折機体の関節部からフシューっと吹き出す蒸気は出撃を今か今かと急かしているかようだ。

 

 ゴーレムの頭部に位置する場所にアヤト達三人はいた。

 頭部の中には大きな水槽が三つ並び、その水槽は透明な液体で満たされいる。その中にアヤト達三人は酸素マスクをして液体に浸かっていた。水槽の周りには大小様々なケーブルが足の踏み場に迷うほどあちらこちらに走っている。

 水槽を満たしている液体は、人工的に作られた擬似髄液である。この擬似髄液を用いてアヤトの思考の海へカズハとヒロを送り込み、さらにアヤトの脳から発せられた電気信号をゴーレムへと送る。


「ノブナガ暖機稼働中。コア同士のシンクロ完了。ヘッドコアとゴーレムノブナガがリンクしました」


「こちらからの遠隔コントールをゴーレムの方で受信。コアとの通話できます」


 下のフロアで作業していた軍人が言うと、三階部分で腕組んで正面モニターを見つめていた男が手元のタッチパネルを操作し、マイクをオンにして話す。


「コア魔法士三名。聞こえているか。司令室の三波だ。第四支部管轄区域で出現したアンノウンがゴーレムを撃破し、現在こちらへ向かって来ている。我々は緊急出撃、これを可及的速やかに撃退する。詳しいブリーフィングは戦闘区域に向かいながらの道中で行う」


『ノブナガ了解。ヘッドコア小鳥遊アヤトこちら起動準備完了』


『サイドコア三波カズハ。起動準備完了です』


『同じくサイドコア富士ヒロ。起動準備完了』


 水中にいるアヤト達は声を出すことができない。思考でするアヤト達の返事は音声に変換され、司令室の中央モニター横に備え付けられているスピーカーから聞こえて来る。


「全コアのバイタル正常。脳波パルス異常なし。起動シークエンス待機中です」


 その言葉を受け、カズキは視線を下のフロアに移し、オペレーターに指示する。


「ノブナガ起動だ」


 指示を受け、ゴーレムの機体制御監視を担当するオペレーターが、目の前にあるPCに起動コマンドを打ち込む。そして、打ち込み終わると今度はキーボードの隣にある鍵穴に鍵を指し回した。


 鍵を回し切った瞬間、ノブナガの放っていた唸り声は徐々に高い音になり音量も上がっていく。


 ゴーレムの起動に合わせて、ドームの天井は中央から割れるように開き、駆動音が最高点に達した時には完全に開ききっていた。


 ゴーレムは片膝をついた状態から徐々に立ち上がる。


「ノブナガ完全起動。機体シールド値一〇〇パーセント」


 ゴーレムは一歩右足を前に出す。右足を下ろすとズシンと基地全体に小さな揺れが広がる。そして一歩また一歩とゴーレムは歩き出す。


 ゆっくりと進み、基地の外に出た。ゴーレムの足元に人や物がなくなったのを確認してノブナガは唸りをあげて走り出した。


『ノブナガ出撃する!』


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