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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
19/21

EPノブナガ18『五機のアシガル』

「アシガルの攻撃が止まりましたね」


「無理もない。アシガルが仕掛けた攻撃を捌く事などノブナガにとっては造作もない。しかも触れただけで相手に火傷を負わすことが出来る。守りながら攻めているようなものだ。だが攻めあぐねていたら、今度はノブナガの方から仕掛ける」


「なるほど……。そこまでは考えもしませんでした。さすがの慧眼です」


「そうでもないさ。お前もそのうちわかるようになる」


 腕を振り払い大粒の火の粉を飛ばすノブナガ。火の粉はまるで散弾のようにアシガルに襲いかかる。

 飛んできた火の散弾をアシガルは魔防壁を展開する事によって凌ぐ。


「あれでは囮が作れないな」


「え、どういうことですか? アシガルの魔力はまだまだありますよ?」


 オペレーターが示す通り、アシガルの魔力推定残量を示す値はまだまだ正常な範囲だ。


「目の前であからさまに作られた囮に引っかかる馬鹿はいない。先程も大掛かりなアクションによる飛び蹴りで交差し、それによりノブナガの視線が僅かに外れた時に囮を展開したんだろう」




「サクラコちゃん。どうしましょうか? なかなか囮を作る機会がありませんね」


 常盤アカネが言うように、眼前のノブナガはただ立っているだけ、時々悪戯のように火を飛ばしてはくるが大した動きではないため隙とは呼べない。


「おそらく大尉は、先程の交差で私が囮を展開したことに気付いている。そして攻めずに私が痺れを切らして突貫するのを狙っている。だけど――」


「機体を交差させる場合。それはつまり至近距離でノブナガの横を通り抜ける事。先程までとは違い、今の大尉達がその隙を見逃すはずはない。ですよね」


「ええ、マサミチその通りよ。ただでさえこちらは攻撃を受け流されるだけでも大火傷。攻めてもよし、守ってもよし。さすがはティア1ね。だけど私は諦めない」


 二機のアシガルがノブナガに向かって駆け出す。どちらが囮か実機かはわからない。

 そのうちの一機がノブナガに向かって攻撃を仕掛けた。攻撃に合わせて、残る一機が後ろへと回り込む。

 アシガルは右の拳をノブナガの胴体へと撃ち込んだ。

 フェイントも挟まれない単純明快な一撃を捌くのは簡単だ。おそらく攻撃を仕掛けた機体の方が魔力によって作られた囮の方だろう。アヤトはそう判断し、手早く対処する。

 放たれた拳に対して、同じく拳でカウンターを決める。燃え盛るノブナガの拳は突貫してきたアシガルの方を突き飛ばす。 

 アヤトの予想の通り、突き飛ばされたアシガルはまるで魔法が解けたかのように霧散する。


 後ろからの攻撃を警戒し、とりあえず前へと転がり込む。そしてノブナガが視線を素早く返した先には――


「作れる囮が一機だけとは思わないでくださいね大尉」


 ――五機のアシガルがノブナガを淡々と狙っていた。

 



 ノブナガを中心に囲むように素早く展開するアシガル。的を絞らせないようにする為なのか、ゆっくりと回転するように動く様はまるで車輪のよう。


「分身して対象を囲むのは創作上の忍者だけかと思っていた」


「アヤト君。もしかして少し楽しんでない?」


「いや、カズハ。俺も割と興奮している」


 若干弾む声のアヤトとヒロ。それとは反対にかなり低いトーンのカズハ。


「もう! 真面目にやってよ! これで五機全部に攻めてこられたどうすんの!」


「……いや、おそらく攻めてこない。正確には攻めることができない」


 声を少し荒げたカズハにアヤトは冷静に返答する。


「俺の予想だが、おそらく一機が攻撃しているときは他の機体は移動ぐらいしか出来ないと思う」


「……その根拠は?」


 そう問いかけるカズハの声はまだ少し刺々しい。


「もし同時に攻撃が出来るなら、さっきはなぜしてこなかった? 正面の囮が放つ攻撃に合わせて背後から攻撃すればよかった。最初に背後へと蹴りをもらった時も、囮が倒れて動けない時だった」


「たまたまって事はないの?」


「その可能性も確かにあり得る。だからあくまで予想だ。だが普通に考えたら操り人形を操りながら何か他の動きができるか? ラジコンカーを操縦しながら字が書けるか? 道守曹長の固有魔法も操り人形のそれに近いと思う。だとしたらせいぜい出来る事は動く程度じゃないか?」


「その可能性は大いにあり得るな。そもそも質量を感じる事のできる囮を五機出現させる。それだけでもう相当な魔力のコントロールが要求されるはずだ。そしてそれをそれぞれ動かす事など、不可能に近いはず」




 アヤトとヒロの推測は的中していた。


「本物を含め、一機しか攻撃できない事を大尉達は気付くかしら」


「遅かれ早かれ気付くかと思います。いやもしかしたらもうすでに気付いているかもしれません」


「でも、気付かれた所で五機展開できた時点で俺達アシガルの準備は整っている。いつもの多方面からの連続攻撃で受け流す前に致命傷を与えてやりましょう」


 マサミチの言う通り準備は整った。数々のアンノウンを屠ってきた自慢の連続攻撃でなら、ノブナガにも有効打撃を与えられるかもしれない。五機のうちの一機が先陣を切りノブナガに突撃する。

 走る勢いを上手く利用した威力のある前蹴り。それを受け流したと思ったら即真後ろからの攻撃にノブナガは対応する。


 三機目は少しタイミングをずらしてフェイントを挟んで攻撃を仕掛ける。先のニ機がテンポ良く攻撃を仕掛けたため、ノブナガはそのリズムのまま来るものだと思い意表をつかれる。


「この三機目が本物の私達ですよ大尉」


 明らかに重さの違う攻撃をもろに受けたノブナガは後ろによろける。

 そこを四機目が追撃をし、続く五機目がサクラコ達が搭乗する本物アシガルの前へとノブナガをタックルで突き飛ばす。


「そしてまた本物の私達ですよ」


 再び受け流す事も、回避する事も出来ずに攻撃を受けてしまうノブナガ。




「アシガルが押してますね」


「本来であれば、複数機による同時近接攻撃は互いが互いを潰し合う可能性があるから逆効果だ。だが今のアシガルのように、ある機体はリズムを崩し、ある機体は次の機体が攻撃しやすいよう場所へと突き飛ばす等、各機体が役割を明確にする事で、アシガルの戦術は総合的に高い攻撃力を発揮している」


 今現在のノブナガとアシガルでは、ノブナガの方が機体の損傷が大きい。

 このままいいようにして終わってしまうノブナガではないと思うが、カズキはノブナガがどんな手を打ってくるか想像がつかない。ゆえにカズキは年甲斐もなくワクワクとした感情を抱いていた。


「さぁ後輩にここまでいいようにしてやられてるぞ。どうするアヤト」

 

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