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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ16『私の将来の夢は』

「――じゃあ、富士中尉が仰ってた、一緒に戦えるサイドコアになりたいって、その時からの決意なんですね」


「おそらくな。普段は割と軟派なやつだけど。あいつにはいつも助けられている。特にあの時はヒロの言葉で気付かされたし、救われた」


 アヤトの昔話は思いの外長くなってしまった。日付は変わってしまっている。


「大尉。私はまだ人になれるのでしょうか?」


「それは曹長次第じゃないか? いや、すまない。この返事は少々意地が悪かったな。そうだな……。曹長は夢はあるか? この先、やってみたいこととか」


 サクラコはその問いに目をパチクリとさせた。


 将来の夢。言葉の意味は理解できるが、なにぶんそれを誰かきら問われる機会など皆無だった。

 サクラコはまさか自分がそんな事を訊かれるなんて想像もしていなかったのだ。


「夢、ですか。その問いを受けたことも、ましてや自分から積極的に考えたこともないので、はっきりとこれと言い切れるものはないのですが」


『でも……』と顔を赤くさせモジモジとしながら言葉を呟く。

 ただあまりにも声が小さく、上手く聞き取れなかったアヤトはサクラコに訊き返す。しかし恥ずかしかったのか頬を赤く染めるサクラコ。


「……わ、笑わないで聞いてくださりますか?」


「もちろんだ」


「本当に? 約束ですよ!」


 食い入るようにアヤトに念を押す。それほどまで恥ずかしい事ならば、自分が聞いてもいいものかと、アヤトは少し不安になる。


「およめさん。になりたいです」


「およめさん? それはその、誰かと結婚するという意味のお嫁さん?」


「は、はい……」


 消え入るような声で返答をするサクラコ。顔はゆでだこのように真っ赤になってしまっている。


「もし私に好きな人ができて、その人とご縁があって結ばれたら。そしてその人と幸せに暮らせたら。そんな事を望むのは高望みでしょうか……」


「そんなことはない。素晴らしい夢じゃないか。うんそんないい夢は人間である証拠だな」


「では大尉は? 大尉はなにか将来の夢ってあるのですか?」


「俺はそうだな。世界を旅してみたいな。日本国を飛び出して、いろいろな国を見てみたい。今は難しいがな。美しい景色。その土地の文化。あとは……美味い食べ物とかな。俺は食い意地が張ってるからな」


 そう言って笑うアヤト。夜風に煽られて、顔に少しかかっていた前髪が横に流れる。それによってアヤトの笑顔がはっきりと見える。その笑顔を見たサクラコは気恥ずかしいそうに目をそらす。


「さてと、すまい。随分と長々と話してしまったな。自室に戻るとしようか」


 そう言って立ち上がる。硬い材質の上に長時間座って居たからか、随分と体が凝り固まってしまった。それをほぐすように腕をぐーッと夜空へと伸ばす。


「大尉。お話しありがとうございました。私の考え方は間違いだったんですね。サイドコアの二人には悪い事をしてしまいました」


「間違いかどうかは俺もはっきりと断言は出来ないがな。軍の上層部からしたら曹長の考え方は歓迎されるだろうし。ただ曹長には俺みたいにその考えに固執することで、何か取り返しのつかないことをして欲しくはないな」




「……ねぇ。アヤト君」


 時刻は朝食時。食堂にてアヤト達ノブナガの面々が集まって朝食を取っていた。アヤト達三人から少し離れた場所に座る第三アシガル機隊の面々がなにか会話をしながら食事をとっている。

 ただ会話をして食事を取るのならなにも不思議ではないのだが、あの道守サクラコが率先して会話をしようと懸命に話題を振っている様子が見てとれる。


 それに気づいたカズハが向かい合う席に座るアヤトに声をかける。


「なんか、サクラコちゃん一晩で変わったというか。少し柔らかく(・・・・)なってない?」


「一晩で? んなアホな。人がそう簡単に変われるわけないだろ」


 そう言いながら味噌汁を流し込むヒロ。そんな話をしているアヤト達のところへサクラコ達がやってくる。


「おはようございます。ヒロ(・・)さん。カズハ(・・・)さん」


 そう言われて軽くむせてしまうヒロ。


「お、おはようサクラコちゃん。えーとその。なにかあった?」


「す、すみません中尉。急に馴れ馴れしいですよね」


「あ、ちがうちがうよ! 私としてはもっと仲良くなりたかったから嬉しいよ」


「でしたら良かったです。実は昨夜、アヤト(・・・)さんにお話を聞いて貰って。それで自分が今まで信じてきたものや考え方を少し見つめ直そうと思ったんです」


「昨夜? ってことは二人きり?」


 周囲の温度が少し下がる。ような気がした。

 割と察しがいい方の人間である常盤兄妹は、なんとなくだが雲行きが怪しくなるのを肌で感じ取っていた。

 ヒロは茶碗を置き、カタカタと震え出す。


「アヤトさんが親身になって話を聞いてくださって。カズハさん。私は将来……。お嫁さんになりたいんです」


「お嫁さん!?(アヤト君の)」


「はい。やっぱりおかしいでしょうか?」


「おか、オカシクハナイカナ。えーと私も、その、なれるならなりたいし」


 カズハとサクラコ。そしてアヤト以外の三人は何となくだがの会話が噛み合っていない事に気付いていた。

 そしてヒロはそもそもの原因を作っている男が悠々と茶を啜る姿に、心の底から湧き上がる殺意を感じていた。


「ヒロさん? うちのヘッドコアと三波中尉。話が噛み合ってないですよね?」


 耳元からぼそぼそと話しかけるマサミチ。

 

「気付いたか常盤兄。いいか、この場は大人しくするか、そそくさと逃げるが吉だ」


 そう言いながら、そっと食器を持って立ち上がるヒロ。音を立てないように慎重に足を運ぶ。


「じゃあカズハさんも、私と同じですね。一緒に夢を叶えられたらいいですね」


「え!? 私とサクラコちゃん二人ともお嫁さんになるの!?(アヤト君の)」


 後ろで聞こえる会話は更に噛み合わなくなっている。だがもう自分達では収集はつけられない。

 そう思い、ヒロと常盤兄妹は戦略的撤退を決め込む。


「だ、だめだよ!! ハーレムなんてだめだよ!! 二股はだめだよ、アヤト君!!」

 

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