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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ12『アヤトの独り言』

「もしくだらないと判断したらさっさと自室に戻っていい。ただ、よければ俺の独り言を聞いてくれないか」


 そう前置いて、アヤトは話し始めた。サクラコは膝を抱えたまま、だがしっかりと顔を上げて聞いていた。


「草薙ハルという男がいた。三波カズハの前任のサイドコアだ。俺とヒロとは教育課程からの付き合いでな。三人でチームを組んでいて、そのまま俺のサイドコアとして共に戦う事になった」


 そうだな。もう一年半も前の話だ――




「やったなアヤト! 俺たち今月もう討伐数は六体目だぜ。こりゃティア3昇格も近いかもな」


 快活な雰囲気を纏う、短髪の少年がそう言いながら、アヤトとヒロの肩を組むように飛び込む。この少年の名前は草薙ハルユキ。第三支部所属、第三アシガル機隊のサイドコアだ。


「ちょハル、やめろ急に肩組むな! いてぇだろ!」


 やめろとは言いつつも、ヒロの顔はにやけている。アヤトも眉間に皺を寄せつつも、それでも本気で不快に思っている顔つきではない。そんな事から三人の関係性が悪いものではないことを伺わせる。


「そういえばハルと、アヤト。いい加減報告書書くの慣れてくれよ。三人まとめて提出なんだからさ。お前ら二人が遅れて、俺まで三波少佐にネチネチ小言言われるの胃が痛くて嫌なんだよね――」


「――ほぉ。俺がネチネチ小言をか。まぁたしかに貴様はしっかりと仕上げてくるのは認めてやるが。貴様がそんなふうに俺のことを評価していたとはな」


「……え?」


 油の足りない歯車のようにギギギと音を立てて後ろを振り返るヒロ。

 そこには鬼のような形相で手に持つ書類を丸め、まるで不良が金属バットを肩に担ぐように立っている三波カズキがいた。


「アヤト。組手付き合ってくれよ」


「……構わないぞ」


 そう言ってヒロを人柱にこの場からそそくさと去ろうとするアヤトとハルユキ。


「まぁ、待て二人とも。サイドコア一人を置いて撤退は頂けないな。というのは冗談で、お前たち第三アシガル機隊に伝令だ。明日からティア3のアンノウンが出現した場合はお前達が出撃する事になった。討伐したらお前達はティア3昇格だ」


 第三支部は現在ティア2ゴーレムの『アマテラス』が駐屯している。魔防壁を鈍器のように扱い、護りながら戦うことを得意とした歴戦の強者だ。


「上の判断だ。討伐数は充分。ティア3相当と戦闘をしても大丈夫だろうと判断が降りた。昇格したらお前達も晴れてネームドゴーレム乗りだな」


 アヤトは胸の前で拳を強く握る。その目は獲物に飢えた狼のように鋭くなっている。


「アヤトどうした? そんなこえぇ顔して」


 そう言いながらアヤトの顔をハルユキが覗き込む。


「これで俺はアンノウンを殺す道具として更に高みへ上がれると思ってな」


「道具っておまえ……。っておい、ちょっと待てよ。どこに行くんだ?」


「トレーニングルームだ」


 そう言い残し、三人を置いてさっさとアヤトは行ってしまう。


「なぁ、カズキさん、ハルユキ。あいつなんか死に急いでる感じしない?」


「ヒロもそう思うか。アヤトここのところ、暇さえあればずっと過去の戦闘映像を見たり、ウエイトトレーニングしたりしているものな」


 どんどんと小さくなるアヤトの背中を見ながら少し悲しげな目をするヒロとハルユキ。そんな二人の方をカズキが優しく叩く。


「ヘッドコアとサイドコアという関係の前に、お前達三人は友人なんだろう? 何かお前達の中で気になることがあるなら今のアヤトにそれをぶつけてみたらどうだ? ほら。行ってこい!」


 そう言って、カズキは二人の背中を押す。押された勢いはそのままに、二人はアヤトの後を追う。


「取り返しのつかない事になる前に。本当に大切なものは何か気づくんだ。アヤト……」


 このままじゃアヤトは間違った方向へと進んでしまいそうな気配をカズキは感じていた。しかしそれを修正できるのは自分ではない。


 気づくかどうかはアヤト次第だ。そしてそれを手助けできるのは、同じ苦労を耐えて。同じ恐怖を乗り越えて来たあの二人だけ。


 偉そうな事を言うくせに、いざって時は力になれない。こういう時の自分の無力さにカズキは骨の髄から嫌気がさしていた。




「アンノウン反応を確認! 現在富士川中流域。河川沿いをそうようにゆっくりと駿河湾方面へ移動中。市街地へと向かっているものと思われます」


「観測班からの情報によると敵アンノウンは現れたら消えたりするとの事。消失中は広域レーダーによる索敵でも敵アンノウンの生体反応は確認されていません」


「敵アンノウンの固有魔法はステルスであると想定。大本営からはティア3相当と通達あり」


 アヤト達三人にティア3昇格の話が舞い込んでからはや一週間。まるで見計ったかのようにティア3のアンノウンが出現した。


「じゃあ当初の話通り。お手並み拝見させてもらうわ。三人ともがんばってね」


 そう言って、アヤトの肩を叩くのはティア2アマテラスのヘッドコア上条アキだ。今年で二十歳となった彼女はもう四年もゴーレムに搭乗している。

 アキはフェミニンな雰囲気の美麗人で、十六のアヤト達からすれば大人のお姉様。そんな彼女から頑張ってねって言われて張り切らない男はそうそういない。


「しゃあああああ! やってやるぞぉおおお!」


 ハルユキが腹の底から叫ぶ。

 耳を塞ぐヒロとさっさと搭乗口へと向かうアヤト。興奮するハルユキへと騒がしい何事かと様子を見に来たカズキの拳骨が落ちる。


「出現した場所を考えろバカ!! 時間がないんだよ!! とっとと搭乗しろ!!」




「カズキさんに殴られた場所が痛い」


「自業自得だ」


「だなぁ……」


 現在三人は擬似髄液の中。シンクロをして外部からの起動シークエンスを待っている。


『お前達いいか、起動するぞ』


 カズキの指示でアシガルが起動をする。アヤトの視界はアシガルとリンクをし、鋼鉄の手足が自分の手足と重なる感覚が流れ込む。


『起動成功。機体シールド値一〇〇パーセント。コアシンクロ率八〇・八五パーセント』


 オペレーターが淡々と伝える事象。シンクロした体の感覚からいつも通りだとアヤトは感じとる。なにも不調はない。

 俺たちならやれる。そのアヤトの昂りがシンクロしているヒロとハルユキにも伝わる。


「アヤト、気負うなよ」


「大丈夫だヒロ。俺はいつも通りだ」


「……。ならいいんだが」




 山間をアシガルは風のように駆け抜ける。起伏に富んだ地形を苦もなく進む。


「速いな。あのヘッドコア、小鳥遊だったか。アシガルの挙動を知り尽くしてる」


 アマテラスの三人も司令室のモニターでアシガルの動向を追っていた。

 アマテラスのサイドコアを務める青年がアシガルの移動速度を素直に称賛する。


「彼は、アヤト君は、教育課程のお偉いさん曰く。最高傑作らしいからね。それを納得させられる無駄のない動き。どうな戦いを見せてくれるのかしら」


 アキは目を輝かせてモニターを見ている。まるで映画館で上映前に胸を踊らす幼児のようだ。


「ずいぶん彼のこと気に入ってるねアキちん。まぁ、確かに顔は整ってるけど。てか、なに? もしかしてアキって歳下が好きなの? うけるぅ」


「……上条。未成年は犯罪だぞ」


 もう一人の女性サイドコアが目を細め、ニヤニヤとアキを悪い笑顔で見つめる。

 それが悪ノリだと気付いていたが、もう一人の男も淡々と被せてくる。


「ち、ちがうわよ二人とも! た、確かに彼はかっこいいけど。ってちがうの! 同じヘッドコアとして彼がどんな風に戦うか興味あるの! だって史上最速でティア3に昇格するかもしれないんだよ。ワクワクだってするでしょ」


 アヤトが正規コア魔法士としてゴーレムに搭乗するようになっておよそ四ヶ月。教育課程の成績がすこぶる良く。それの後押しもあり初陣から僅か一ヶ月でティア4へ昇格。そして三ヶ月でティア3へと手が届く位置へと上り詰めた。


 アキの言う通り、アヤトがもしこのまま敵アンノウンを討伐したら史上最速でティア3へと昇格する事になる。


「確かに。俺たちはティア3に上がるのにニ年はかかったからな。そう考えると、最高傑作は伊達ではないな。アキの言う通り、ワクワクもするか」


「でしょー! 私達なんてすぐに追い越されちゃいそう。そしてそのまま日本初のティア1ゴーレムになっちゃったりしてね」


「はしゃぐ気持ちはわかるけど、そろそろ予想戦闘区域だよ。ちょい静かにしよーよ」


 女性サイドコアの真剣な声でアキ達二人はスイッチが切り替わったように静かになる。


 司令室にいるのに、三人が纏う雰囲気は臨戦態勢そのものであり、ティア2の風格を感じさせる。 


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