表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
12/21

EPノブナガ11『貴方に私の何がわかるというの』

「お前はファームの関係者か――」


 アヤトとサクラコの二人しかいない通路。サクラコはアヤトの目をそらさずに見ている。サクラコの目に光はなくまるで深淵のような眼差し。

 訓練された動作でセーフティーを解除した拳銃をアヤトに向ける。


「大変申し訳ありません。大尉が仰っている話が何のことか私はわかりません」


「目は口ほどに物を言う。尤も、俺に拳銃を向けた時点でそれが答えだがな。見なかったことにしてやる。誰か人が来る前にそれをしまうんだな」


 素直に支持に従うサクラコ。しかし依然として射殺さんばかりの目つきでアヤトを睨む。


「その従順さも教育の賜物か。だがどんなに鋭利に磨き上げても道具ではなくお前は人だぞ」


 くっ。と苦々しそうに声を漏らすサクラコ。そしてアヤトの眼前まで歩いてきて


 バチン。とアヤトの頬を平手で叩く。簡単に避けられたであろうその平手をアヤトはわざとよけなかった。


「貴方に私の何がわかるというの! 太陽の下でのうのうと育てられた貴方に。日の光も当たらないような場所で家畜のように育てられた私の気持ちなんて――」


 もう一度アヤトの頬を叩くサクラコ。アヤトは避けない。


「わかるはずがない。いいえ、わかってたまるものですか!」


 サクラコの両眼には涙が浮かんでいた。背を向けてアヤトから逃げるように走り出す。その背中をアヤトはただ黙って見送る。




 なぜ魔力を持つ子どもたちが産まれるのか。その理由ははっきりとはわかってはいない。

 アンノウンが飛来した後に世界各地で確認されるようになったから、何かしらの因果関係はあるのだろうと考えられているが、それも解明されておらず。

 アンノウンへの対抗策ということもあり人類は目下魔力とはなにかという解析を進めていた。


 なぜ、同じ親から産まれた兄弟の中で、魔力の有無が分かれることがあるのか――。

 なぜ、固有魔法を持つものと持たないものがいるのか――。


 そうして人類の疑問点はある一点へとたどり着く。


 人工的に強力な魔力を持つ子供を創ることは出来ないだろうか――。


 アンノウンの災禍で親と死別した子供たちは多い。そしてその中には魔力を発現させていた子供たちもいた。

 軍の研究チームはそういった子供たちを全国各地から集め、ありとあらゆる解剖紛いの検査をした。なんとしても魔力とは何かを突き止めたかったのだ。


 そしてあることを思いつく。魔力を持つ子供たちどうして交配をさせれば、さらに強力な魔力を持つ子供が産まれるのではないかと。


 まるで動物の遺伝子改良。精通した男子から精液を採取し、初潮を迎えた女子へと、排卵の時期に合わせ子宮の入り口から管を入れて精液を子宮内へ直接注入する。

 ありとあらゆる組み合わせを試行錯誤し人工授精を行い、強力な魔法士を創ろうと軍は躍起になる。こんなことを繰り返すうちに研究施設はファームと呼ばれるようになった。


 顔も知らない、好きでもない相手の子を孕ませられる。


 こんな非人道的な人体実験を行っていながら軍が法的制裁や、人々から糾弾されないのは、ひとえに今の世の中で軍という組織が力を持ちすぎているからだろう。


 軍のトップは軍人ではなく文民である。


 過去のそういった『シビリアンコントロール』はすべて撤廃され。職業軍人が軍を統括する。それにより軍は今となっては国とほぼ対等な力を持っていたのだ。


 そこまで力のある軍が親を亡くした孤児たちを集めて育てていると世に発信すれば。世論も人心も軍へと傾注する。むしろ軍はよくやっていると評判が上がるほどだ。


 軍の暗部ともいえるこの実験施設のことは、軍の中でも限られた人間しかしらない。アヤトとガイアがファームの事を知っているのも男の高ティアコア魔法士として、好きな時に好きな女を抱かせてやるからファームの運営に協力しないかと軍上層部からその筋の人間を通じて打診があったからだ。


 表の顔は慈愛にみちた組織であるというプロパガンダ。だがその裏では人の道から逸脱した行為を粛々と行う暗部。これがファームの実態だ。




「ト君……。アヤト君。ねぇアヤト君ってば私の話聞いてるの?」


「どうしたアヤト。大丈夫か? さっきからずっと上の空って感じだけど。飯もそんなに進んでないようだし。体調でも悪いのか?」


 アヤトはカズハとヒロと連れ立って食堂で夕食をとっているが、アヤトだけどこか心ここにあらずといった具合で食事は進んでいない。


「すまない二人とも。少し考え事をしていてな。体調は悪くないんだ。だから心配はしないでくれ」


 そう二人には言うが今のアヤトはどこか顔色も悪い。カズハとヒロが心配するもの無理はない。


「大丈夫ならいいんだけど……。あ、そうだ! この後ね私とヒロ君とマサミチ君とアカネちゃんの四人でブリーフィングルームで映画見ようと思うんだけどアヤト君もどう? サクラコちゃんには断られちゃって……。ジャンルはホラーだよ」


「いやすまない。誘ってくれるのは嬉しいがどうも少し考え事をな。だから俺は遠慮しておく。今日はもう自室に戻るとするよ」


 そう言ってまだ半分以上残っている食事の乗ったトレーを持って立ち上がるアヤト。足早にトレーを返却し、去っていくアヤトに二人は何も声をかけることが出来なかった。




 自室のベットで横になるアヤト。サクラコのあの反応。まず間違いなく、彼女はファームに関係がある。あの言葉からおそらく、彼女は教育された子供たちだろう。


「なぁ、草薙。俺は人間になれたのだろうか……」


 思い出すのは過去の自分。サクラコ同様、完璧な道具としてあろうとした忌々しい記憶。


 深いため息を吐く。そんなアヤトの携帯端末に電子音が響く。メールを受信した時の音だ。ゆっくりと携帯端末を取り上げ、受信したメールを開く。送り主はサクラコだった。


 ――このあと、二十三時。レーダー棟の屋上に来ていただけると幸いです――


 時刻は二十二時過ぎだ。今から向かってもサクラコを待つことになるだろう。しかしアヤトは何かに急かされるようにレーダー棟へと向かった。




 アヤトがレーダー棟に屋上に着いたのは二十二時半前だった。屋上までの道のりは慣れたもので、ゆっくりと歩いたとしてもこれぐらいには着いてしまう。


 まだ来ていないだろうと思っていたアヤトだっが、フェンスの背中を預けるように膝を抱え座り込んでいるサクラコを見つけ、足早に彼女へと近づく。


「約束の時間まではまだあるが。随分と早いな」


「……そう仰る大尉こそ。お早いですね」


 サクラコは立ち上がる様子はない。アヤトは人二人ぶんだけ離れた場所に同じく腰を下ろす。


「……大尉は、ファームのことをどこまでご存知なんですか?」

 

「その存在と、行っている内容。その二つだ。主導者は誰で、ファームの場所がどこか。上層部のどこまでが知っているか。それはわからない」


「私も似たようなものです。ファーム中で育ち。十五になってから軍の教育課程へと送られました。私と同じ年齢の子達が何人かいたんですけど、教育課程へと行けたのは私一人だけ」


 徐々にサクラコの言葉は涙声になる。


「私は、親は知りません。私の年齢から逆算して、私の母親に当たる人はきっと私と同じような年頃で私を孕んでいます。私以外の子供達はきっと種と袋に分けられて、モルモットのように交配させられているかもしれません」


 ただ黙ってサクラコの話を聞くアヤト。サクラコは時々鼻をすすりながらもしっかりと声に出す。


「私は、あそこに戻りたくない。結果を残せば、軍に従順であれば。私は評価されて、少なくともコア魔法士でいる間だけは太陽の下で生きていける。そのためなら私は道具にだってなります」


 アヤトは立ち上がり、サクラコの前へと腰を落とす。懐からハンカチを取り出してサクラコへ渡す。おずおずと顔を上げ、恐る恐るとハンカチを受け取るサクラコ。


「道守。お前の過去をただ大変だったなで片付けるつもりはない。俺はお前ではないのだからお前の苦しみを理解できるはずもない。ただ、お前が道具として、消耗品としてこのさき歩んでいったらなにが待っているか。それだけは俺もわかる」


 サクラコは膝から顔を上げて、赤く腫らした目でアヤトの目を見る。


「俺も前までお前のようにアンノウンを倒すための道具であろうとした。そのせいで大切な友人を一人。俺は殺してしまったんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ