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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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EPノブナガ9『ぶつかり合うサイドコア』

「いきますよヒロさん!」


 力強く踏み込むマサミチ。まずは小手調といった具合の中段突き。ヒロの腹部を狙う一撃を放つ。

 小手調とはいえ一般人相手に放ったら危険な一撃をヒロは難なく回避する。


「まだまだぁあ!」


 だがヒロが避けるのを予知していたかのように、突きから流れるように動きを繋げる。

 踏み込みのために広げた足、それを閉じるような動作から回し蹴りを行う。

 蹴りは綺麗に弧を描く。まるで鎌のように対象を刈り取る回し蹴りをヒロの頭部へと放つが、ヒロは顔を少し反らすだけ、息をするように回避する。


「空手か。寸分の狂いも見当たらない素晴らしい回し蹴りだ。中段突きから隙なく繋げたことも評価に値する。それに寸止めじゃなく、技を相手に当てることに慣れてる。極真か古武術系統の有段者か」


「さすがです大尉。私達兄妹は祖父から古武術からの流れを汲んだ空手を習っておりました。もっとも、私は兄のように練度は高くありませんが。祖父曰く、兄は天才の類だそうで。この力で誰かを救えるならと、私達はコア魔法士になろうと決意しました」




 激しく突き技と蹴り技を繰り出すマサミチ。あまりの激しさに、側から見たらどんどん体力を消耗しているように見えるが、息は上がっていない。

 それどころか拳と蹴りは繰り出すたびにその一つ一つが研ぎ澄ませれ、徐々に鋭さを増していく。


「まだまだ余裕ってか。やるじゃねぇか常盤兄。本当にサイドコアなのが勿体無いわ。真面目にヘッドコアを目指したら、っと!」


 ヒロはマサミチの眼前へと掌底を放つ。攻撃しようとしたマサミチは少々オーバーなくらいに大きく後ろに引く。

 両者の間に距離が生まれる。ここまで距離が開いたら再び攻撃を組み立てるのは不可能、仕切り直すしかない。


「ヒロさんこそ。目が良すぎじゃないですか? 今の掌底だって、俺の攻撃と攻撃の間の僅かな隙間をついてくるじゃないですか。くそ白けちまった」


 技を繰り出すたびに冴えていく感覚。その研ぎ澄まされた五感は頭が考えるより先に最善の一手を放つ。

 それにより一撃の完成度は上がり、攻撃と攻撃の間の隙間を限りなく無にすることができる。先程までのマサミチはまさにそれだった。


 だがその研ぎ澄まされた五感が仇となった。


 なんてことはないただの掌底に見えたヒロの攻撃は、攻撃と攻撃の間、決して無になることのないその刹那を完璧に捉えていた。

 そして人体の急所。目を狙ったその攻撃を、研ぎ澄まされた感覚が過剰に危険と判断した。それにより本人が意図しないほど後ろに体が動いた。


 そして強制的につくられた間に感覚は嫌な冷め方をする。


「ほらほら。アンノウンは白けたからって、またボルテージが高まっていくのを待ってはくれない、ぜぇ!」


 ヒロはただ立っているだけの体制からから一気に加速する。二回だけ床を踏み抜く音が聞こえた。それはヒロが二歩で詰めてきたということ。

 ヒロの目線と重心の位置から自分の胸に攻撃が来ると判断したマサミチは即座に腕を交差し衝撃に備える。


「――あめぇよ」


 ヒロはもう一歩踏み込む。そしてその踏み込みと同時に反対の膝を勢いよく上げる。その膝蹴りはマサミチの交差した腕を下からかちあげた。

 目線と重心の位置はただの前蹴りだと思わせるフェイク。完璧に誘導されたマサミチはまんまとガードを壊される。

 上げた膝を今度は踏み込むための一歩に変え、ヒロはがら空きの胴体に拳を叩き込む。


 ガキンッと金属と金属がぶつかるような音がした。ヒロの放った拳は固い壁に阻まれマサミチに届かない。


「魔防壁を殴るとさすがにいてぇな。いい展開速度だ」


 マサミチはとっさに魔力を集めて壁を作り、ノーガードだった胴体を守った。ヒロの拳のほうが赤みを帯び明らかにダメージを受けている。


「魔防壁を本気で殴って痛いで済むんだから、ヒロさんこそ魔防壁を拳に纏わせていたでしょ。今の攻撃、俺の腹に当たってたら内臓破裂しちゃいますよ」


「展開してくるって確信があったからな。まぁ間に合わなかったらその時はその時だ」


「怖い人だ、なぁ!」


 今度はマサミチが魔防壁を纏わせた拳を放つ。纏う魔力により拳の周りが陽炎のように揺らぐ。

 当たれば死ぬ。そう思わせる一撃を――。


「っしい!」


 ヒロは片手で受け止めていた。


 攻撃を回避すると距離が生まれてしまう。そして必然的に攻撃をするためにはその距離をどうにかして埋めなければいけない。

 しかし詰めるにしてもあからさまだと、相手に今から攻撃をしますよと暗示しているようなものだ。それに、そもそも体格や技術によって攻撃が当たるまでの距離が違う。

 相手の攻撃が当たらない、または相手が攻撃をしにくい距離を保つ。そしてそれに矛盾しつつも自分の攻撃の際は当たる距離まで詰める。これが間合いの駆け引きである。


「うけ、とめて。え?」


 その駆け引きの一切をヒロは消し飛ばす。


 相手の攻撃を受け止める。それは互いの間合いが否が応でも重なっている状態だ。ここから守るにしろ攻めるにしろ判断の速さがものをいう。マサミチは自身の攻撃を受け止められた事に戸惑っており体が動かない。

 マサミチが戸惑うのも無理はない。魔力で強化された鉄のような剛拳を、魔防壁があるとはいえ受け止めようとは誰が思うだろうか。


「ほら、ぼーっとするなよぉ」


 そう言いながらヒロは捉えた腕を引き、肘をマサミチの脇下へと密着させる、そのまま上腕を挟み込み支点を作り出し、ヒョイと担ぎ上げる。

 何が起きているのか、これから何が起きるのか。マサミチが理解した時には視界はすでに反転していた

 

 ヒロはマサミチを背負う勢いのまま、床へと叩きつける。そしてそのままバランスを崩しマサミチの上に倒れ込む。




「いってぇすわ……」


「すまん……。俺、柔道は下手だったわ」


 ヒロから差し出した手をつかみ、腰をさすりながら立ち上がるマサミチ。しかしやはり背中を強打したのが響いたのか、崩れるようにその場に倒れそうになる。

 寸前、ヒロが肩を貸してマサミチが崩れるのを防ぐ。


「慣れないことをするな馬鹿ヒロ。常盤マサミチ軍曹は念のため医務室に行ってこい。常盤アカネ軍曹も兄に肩を貸してやるといい。カズハ先導しろ」


「申し訳ありません小鳥遊大尉。無様な結果をお見せしました」


 ヒロと妹に肩を貸されて立っているため頭だけ下げるマサミチ。その表情は悔しさと小鳥遊アヤトという男に無様な姿を見せてしまった恥ずかしさがあった。


「いい動きだった。今度は俺と組手をしよう。今は医務室で治療してもらえ」


「は、はい! っ痛!」


 憧れの人から褒められた事実にマサミチは背筋を伸ばしてしまう。そして走る激痛に顔を歪ませる。


「常盤兄、痛めてるんだから暴れるなって……」




 医務室に向かう四人の背中をアヤトとサクラコはお互いが無言で見ていた。

 トレーニングルームの自動ドアが閉まったら、サクラコがアヤトに向かって頭を下げる。


「私のサイドコアが富士中尉と三波中尉のお手を煩わせてしまい大変申し訳ありません。二度とこのような失態がないよう厳しく指導させて頂きます」


「ヒロの強さを知っていた上でけしかけたのは俺だ。むしろヒロ相手にあそこまで戦えた事に感心している。それに道守サクラコ曹長」


 先程マサミチにかけていた時よりアヤトが纏う雰囲気が重くなったことをサクラコは感じ取っていた。下げた頭を上げて顔を見るのが恐ろしい。


 まるで垂れた頭に抜身の刀を突きつけられているようだ。


「貴様にあの二人を指導する資格はないぞ。自分を含め、人の命を道具としか見ていない貴様にはな」

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