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鋼鉄のゴーレム  作者: ShotArrow
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プロローグ『終末と奇跡と緊急出動』

 奴らが何者かなんて知らない。奴らの目的なんてわからない。だから俺たちは奴らを『アンノウン』と呼ぶのだろう。


 この戦いはいつまで続くのだろうか。それは神様だってわからないさ。




 ニ一〇〇年。人類は人型巨大生物。通称『アンノウン』による破壊活動により日毎に滅亡へと追いやられていた。

 世界ではじめてアンノウンが現れたのは三五年も前。当時はまだ日本という名前だった島国の静岡県上空だった。


 ある日の正午。まるで夜になったように、辺りが急に陰り出した。

 道を行く人々が不審に思い空を見上げたらまるで高層ビルの様な、不気味なほど整った立方体の形をした物体が迫ってくる。


 あれは隕石だろうか。いやわからない。しかしゆっくりとゆっくりと近づいてくる。あんな巨大なものに押し潰されたら、待っているものは死。

 人々は恐怖で狂乱した。見上げたまま口から涎を垂らし、涙を流すサラリーマン。空気摩擦により発生した轟音に慄き泣き喚く我が子をあやし、自身は涙を堪える母親。


 日本政府が自衛隊へとミサイルによる撃墜命令を下した頃にはもう遅かった。近くに駐屯する部隊が出撃した頃にはまるで手を伸ばせば触れられそうな距離まで近づいていた。

 多くの人々は目を背け、手で顔の前を覆う。こんな事をして助かる訳ではない。ただの生物の防衛本能だ。


 だが、大地へと衝突すると思われた未確認物体は曖昧な距離を保ち、上空で停止した。恐る恐る目を開ける人々。奇妙な静寂の中で誰かが言う。


「助かった、のか」


 その言葉を皮切りに歓声が響く。サラリーマンの恐怖を拒む涙は奇跡を喜ぶ涙に変わり。母親は子供を抱きしめたまま、自身も大粒の涙を流す。


 あの未確認物体の正体は何なのか。なぜ地球に来たのか。そしてなぜ止まったのか。そんな疑問はどこかへと飛んでいき、ただ助かった事実だけが人々を支配する。


 奇跡からおよそ一時間後。日本政府は自衛隊に命令を出し、複数のヘリコプターによる物体への接近を試みていた。

 見た目は硬い金属質な印象を受ける。だが動力となるものは外からは確認できない。ならどうやってここまで飛んできた。そしてどうやって止まっている。

 手詰まりになった調査を進展させるため、少々荒っぽい手段を取る。辺りの民間人を退避させ、試しにヘリコプターの機銃を浴びせてみる事にしたのだ。しかし返ってきたのは金属を叩くような高い音ではなく。耳と心臓に響くような不快な音だった。まるで生身の人間に銃弾を打ち込んだような。


 撃ち込んだ銃痕からは紫の液体が溢れる。液体が溢れている穴はドクドクと脈打つ。まさか、これは生き物なのか。その場にいた自衛隊員に胃がキリキリとするような、寒気のする緊張感が走る。映像を見ていた政府首脳陣や自衛隊の指揮所も同様だった。


 その時だった。ぶくぶくと泡立つように物体の表面が膨らむ。撃ち込んだ場所から溢れていた液体はもう止まっていた。ビルのような形はまるで子供が粘土で遊ぶかのように、ぐにゃぐにゃと異形な何かへと形を変える。

 そしてある形になった時。未確認物体はゆっくりと大地へと降り立った。その大きさは下から上までおよそ一〇〇メートルくらいだろうが、既視感を覚えるその形は。


「まるで、人間のようじゃないか」


 そう呟く隊員の言葉にハッとヘリコプター部隊を指揮していた自衛官が叫んだ。寒気のする緊張感の正体に気づいたのだ。


 これはあの生物(・・)が放つ殺気だ。


「全機退避!!」


 ぐるんと腕を回すように謎の生物はその場で一回転をする。風を切るその剛腕は暴風を巻き起こしヘリコプターを一機巻き込む。地に落ち、爆発するヘリコプター。


「全機につぐ!! 全速力で奴から離脱しろ!!」


 隊長からの指示にヘリコプターは踵を返し、離脱を試みる。しかし未確認生物はそれをよしとしない。近くのヘリコプターへと腕を伸ばし、人が蚊を振り払うように薙ぎ払う。再び墜落し、爆散する機体。それを目の当たりにした一機が我を忘れ未確認生物へと機銃を乱射する。


「よせ!! 逃げろ!!」


 そう叫ぶ声は乱心した隊員には届かない。撃たれた未確認生物は注意を乱射した機体へと向ける。そしてその機体に近づき、再び腕を振るう。また一機地面へと堕ちていく。


「HQ!! 直ちに航空機と陸上部隊による迎撃を開始してください!! 奴は敵対生物です!!」




 その後、便宜上『アンノウン』と名付けられた巨大生物は、まるで狙ったかのように人が密集している地域ををねり歩いた。建物を瓦礫の山に変え、数えるのが馬鹿らしくなる程の死者を出した。


 日本はアンノウンに対して、自衛隊の地対空ミサイルSAMと戦車による砲撃を撃ち込み、空から戦闘機による迎撃をしたのだが、撃退にまで事を運べなかった。

 結局、日本は友好国のアメリカの核攻撃でなんとかアンノウンを撃退した。


 これで終わったんだ。誰もがそう思い込んでいた。その安堵を絶望は上からドロリと塗り潰す。アンノウンは日本に現れたあの一体だけではなかったのだ。


 一ヶ月後。今度はアメリカ、イギリス、オーストラリアなど。あのビルのような物体は世界各国に姿を現し、再び人の姿をしたアンノウンとなり、人類を襲い始めた。

 現状、アンノウンに有効打を与えられる兵器は核のみだ。その事実に各国が自軍隊へと急速に核兵器を配備する。

 非核三原則を提唱している日本ですら重い腰をあげて、自衛隊を解体、国軍として再編成を行い、ついに核兵器を配備した。


 アンノウンが出現する度に核兵器を撃つ。それは大地を空を、そして海を蝕んで行った。




 だが哀れな人類への神からの情けだろうか。アンノウンが飛来した二〇六五年。起きたのは災厄だけではなかった。まるでその災厄に立ち向かえと言わんばかりに奇跡が起こる。


 二〇六五年以降に生まれた子供の中に、現代の科学では説明のできない。不思議な力を持つ子供達が発見された。

 重力に逆らって紙飛行機を永遠と飛ばす子供。握っているままごとの玩具から放電をする子供。くしゃみと共に氷のつぶてを飛ばす子供。

 それは遥か昔より御伽噺の産物として語り継がれていた『魔法』だった。


 そして各地のウラン鉱山から採掘されるようになった未知の金属。

 詳しい理由は不明だが、ウラン鉱山でしか採掘されないこの金属は異常なまでに硬く、そして異様なまでに加工がし易い。

 まるで神話のアダマンタイトやヒヒイロカネのよう。リアリストな識者達もこの金属にはそう言わざるを得なかった。


 魔法使う子供達という矛と、神話を再現した金属という盾。国という垣根を超えて叡智と技術を集めた人類が考え抜いた反撃の方法。それは一昔前の夢物語を現実にすることだった。


 金属を加工し、アンノウンサイズのロボットをつくる。そしてそのロボットを魔法が使える子供達に操らせアンノウンと戦わせてはどうか――。


 それが大人達が出した結論だった。




 だが、どうやって子供達に操縦させる?


 既存する兵器のようにハンドルや操縦桿では、人型兵器の運用には限界がある。それにそんな複雑な操縦を子供達に仕込むまでに果たして何年かかる。


 まるで操り人形のように。自由自在に手足を動かせたなら。


 だとしたら人体はそもそも脳による操り人形だ。


 かねてより研究開発されていた医療用の万能細胞を応用した溶液を作り、その中に子供達を沈めて、子供達本人をゴーレムの脳とする操縦方法を思いつく。


 こうして核分裂を動力として、その巨体を魔力と子供達が脳になる事によって制御する。人型戦略兵器『ゴーレム』は誕生した。


 


 巨体を操り、その動作を戦闘技術にまで昇華するには並外れた魔力量。魔力を制御する力。

 そしてゴーレムを自分の肉体のように操る技術が必要となる。


 それらを満たす為に徹底的に教育され、軍に所属する子供達は、ゴーレムの核となる事から『コア魔法士』と呼ばれた


 だが一人の魔法士では、巨大なゴーレムを制御するには力不足だった。


 ゴーレムを立ち上がらせようとして脳神経が焼き切れた者。倒れかけた体勢を立て直そうとして、急にパソコンがシャットダウンするように意識を失い、その後に脳死した者。

 核分裂が産み出す莫大なエネルギーと、それを元にゴーレムの巨体を制御するには人類が予想だにしない程に身体への負担が大きかった。


 一人でダメなら増やせばいいじゃないか――。




 戦闘に有効な魔法を扱えるもの。ゴーレムを操っての戦闘技術が高いもの。そういった子供をゴーレムを直接操るメインの魔法士。通称『ヘッドコア』として据えて、ヘッドコアを魔力でサポートするためだけの魔法士。通称『サイドコア』に魔法士を二人あてがう。

 ヘッドコアの脳へと、サイドコアの意識を送り込み、疑似的に一人の人間とすることで魔力を練り合わせ増幅させる。そうする事により負担を分担しつつ、大きな魔力を発生させる事に成功した。


 しかしこの方法は問題があった。


 サイドコアとなる魔法士達は戦闘時間が長引くほど自身の体へ意識が戻りにくくなる。

 さらにゴーレムと人機一体となっている三人の魔法士はゴーレムが傷を負うと同じ箇所に傷を負う。

 自分自身という存在をはっきりと認識できるヘッドコアはまだしも、自己と他者の境界線が曖昧なサイドコアの魔法士は、受けるダメージが多ければ多いほど人格が崩壊したり、脳死する可能性が上がる事だ。


 そして一番深刻な問題点。


 三人の魔法士の誰か一人でもゴーレム稼働中に脳死、及び外的損傷により死亡した場合。三人の魔法士全員のシンクロ接続を断たなければ、魔力のバランスが崩壊して、魔力の暴走を引き起こし、ゴーレムが制御不能に陥り最終的に核爆発が起きてしまう事だ。


 ゴーレムが臨界点を突破する前に強制的にシンクロを断つことが出来れば核爆発は起きない。


 だが自分の体に精神が戻る前に強制的に断たれるシンクロは、サイドコアの魔法士を強制的に脳死へと追い込む。


『人柱ありきの兵器なんて間違っている』


 この事実が公表されると連日、世論は荒れに荒れた。

 しかしゴーレム以上の攻撃力を誇る兵器を今の人類は思いつかない。そして解決策を模索する今この時をアンノウンは待ってはくれない。


 アンノウンに対する被害と禍根が増えるにつれ、上書きするかのように非人道的だと言う声は少なくなった。


 こんな不完全な兵器を最強と祭り上げ、頼ることしか今の人類に残された選択肢はなかった。


 両手の指だけじゃ数えるには足りないほどの欠陥を抱えたまま、多くの屍と廃人となった子供達の果てに、ゴーレムの基礎システムである『トライコアシステム』が産まれた。




 これは『道具』として扱われ。『人間』として生きようとした子供達の物語である。




 富士山の麓。辺りが開けた静岡県は裾野市。この場所に日本国軍の第三支部がある。旧自衛隊の駐屯地を元に改築改造し、ゴーレム部隊を中心に構成された対アンノウン用の迎撃基地となっている。


「……ふわぁ」


 基地を中心に、辺り一帯の広範囲を監視している観測棟。その観測棟の屋上に仰向けになって寝ている少年がいる。


 黒く短い髪にまだ少し幼い顔つき。本来であれば学生の身分であろう年齢の少年が軍の敷地内に居るのはとても珍しい光景だ。しかし今の世の中では極めて特殊なことでもないらしく、現にこの少年も軍の制服を身につけていた。


 毎日がアンノウンとの戦闘というわけではなく。今日は春先らしい暖かい陽気が基地を包んでいた。ときおり柔らかい絹のような春風が頬を撫でる。その風にのって少年の耳に届くのは観測棟の内部で何かが稼働する機械音だけ。だがひどく騒々しいというわけではなく、居眠りするのに支障はない。


 こんな穏やかな日だ、少年のように屋外で横になるのも悪くはないだろう。しかしその束の間の平和を壊すように基地全体にけたたましいアラート音が鳴り響く。


緊急出撃(スクランブル)か」


 鼓膜を突き刺すような無粋に鳴り響く音に少年はスクッと起き上がる。そして、登ってきたであろう棟の外階段を一気に駆け下り、基地の中央部に位置する巨大なドームへと走っていった。


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